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Milnor 予想篇:§7 主定理の証明

§§ 5, 6 で、Bloch-Kato 予想が次の主張から従うことを、一応説明しました。

目標\[ H^{w+1,w}_L (Spec(k),\mathbf{Z}_{(l)} )=0 \tag{H90\( (w,l)\) }\]

これを考える上で役に立つ事実として、§5 で次のことがわかっているのでした。

定理 [\(\mathbf{Z}/2\)-coeffi., Theorem 5.9] BK\( (w,l) \) を仮定する (たとえば、H90\( (w,l)\) のもとでこれは満たされる)。このとき、条件

● \(k\) は次数 \( l\) 冪の拡大体しか持たず、\( K_{w+1}^M(k)/l =0\).

を満たす標数 \( \neq l\) の体 \( k\) に対して次が成り立つ: \[ H^{w+1,w}_{L}(Spec(k),\mathbf{Z}/l)=0. \]

 §7 では H90\( (w,l)\) の \(l=2\) の場合を証明しています。

 

大きな体の場合

まずは H90\( (< w,2)\) を仮定した場合に、上記の定理の仮定を満たす体に対しては H90\( (w,2)\) が成立することを素早く見ましょう。ガロア加群として \( \mathbf{Z}/2 \cong \mu _2 \) でした。いま、H90\( (w-1,2)\) と定理5.9から \( H^{w}_{et}(Spec(k), \mathbf{Z}/2 )=0  \) なので、係数に関する完全列 \[  0\to \mathbf{Z}_{(2)}(w) \to\mathbf{Z}_{(2)}(w) \to \mathbf{Z}/2 (w) \to 0 \] と合わせると \( H^{w+1}_{et}(Spec(k),\mathbf{Z}_{(2)}(w) ) \) が torsion free とわかります。なので、この群は \[ H^{w+1}_{et}(Spec(k),\mathbf{Q} (w) ) \] に単射で写ります。が、一般論で、\( \mathbf{Q}\) 係数では et と Nis で差はありませんので、これは \(H^{w+1}_{N i s}(Spec(k),\mathbf{Q} (w) )\) に同型です。しかし \( \mathbf{Z}(w)\) はコホモロジー次数 \( \le w\) にしか非自明な項を持ちませんので、この Nisnevich コホモロジーは 0 です。

 以上で、条件「\(k\) は次数 \( 2\) 冪の拡大体しか持たず、\( K_{w+1}^M(k)/l =0\)」を満たす体に対しては H90\( (<w,2)\) から H90\( w,2\) が従うことがわかりました。

 

一般の場合

消滅問題 \( H^{w+1}_{et}(Spec(k),\mathbf{Z}_{(2)}(w) ) =0 \) を上のような「大きな体」に帰着するために、次のような体の構成問題を解けばよいです。

体の構成問題 与えられた体 \( k\) と、\( k^*\) の元の組 \( a_1,\dots ,a_w \) に対して、拡大体 \( k\subset K \) であって、コホモロジー写像 \[  H^{w+1}_{et}(Spec(k),\mathbf{Z}_{(2)} (w) )\to H^{w+1}_{et}(Spec(K),\mathbf{Z}_{(2)} (w) ) \] が単射かつ \( \{ a_1,\dots ,a_n\} \in K^M_w(K )/ 2 \) が 0 であるものを構成せよ。

 これが出来れば何故よいのかを、念のため丁寧に見ましょう。体の構成問題を、あらゆるシンボル \( \{ a_1,\dots ,a_w\} \in K_w^M(k) \) に対して超限回おこない、得た体に奇数次の拡大体をすべて添加するという拡大 \( k\subset \Omega _1 \) をとります。すると \(\Omega _1\) は次数が 2 冪の拡大体しか持たず、\( K_w^M(k)/2 \to K_w^M(\Omega _1)/2 \) は零写像です。同じことを \(\Omega _1\) に対して行って \(\Omega _1 \subset\Omega _2 \) を作ります。これを加算無限回おこなって、すべての合成体を \(\Omega _\infty = \bigcup _{i\ge 1} \Omega _i \) とします。これに関して、\[ K_w^M(\Omega _\infty )/2 =0 \] です。なぜなら、この群の元はすべて、有限の段階 \(K_w^M(\Omega _i )/2 \) から来ますが、\( \Omega _{i+1}\) の構成により、\(K_w^M(\Omega _i )/2 \to K_w^M(\Omega _{i+1} )/2\) は零写像だからです。

同様の議論により、\( \Omega _\infty \) の有限次拡大は次数が 2 冪のものしかありません。じっさい、\( \Omega _\infty \) 係数の奇数次の多項式 \( f(x)\) が既約だと仮定します。このとき、\(f\) の係数は有限個なので、ある \( \Omega _i \) にすべて含まれています。そして、構成から \( \Omega _i \) は奇数次の拡大体を持たないので、\( f\) は \( \Omega _i\) 係数多項式として既約ではありえません。これは始めの \(f\) のとり方から生じる矛盾なので、\( \Omega _\infty \) が奇数次の拡大体を持たないことがわかりました。

 というわけで \( \Omega _\infty \) が上の条件を満たすような「大きな体」とわかりました。ので、「大きな体の場合」により、H90\( (w-1,2)\) の仮定のもと、コホモロジーの消滅 \[  H^{w+1}_{et}(Spec(\Omega _\infty ), \mathbf{Z}_{(2)} (w) )=0 \] が結論されます。

一方、拡大 \( k\subset\Omega _\infty  \) が誘導する \[
H^{w+1}_{et}(Spec(k),\mathbf{Z}_{(2)} (w) )\to H^{w+1}_{et}(Spec(\Omega _\infty ),\mathbf{Z}_{(2)} (w) )
\] は (単射の合成なので) 単射です。\( \mathbf{Z}_{(2)}\) 係数なので、奇数次の体拡大に対して制限写像単射であることも用いています。よって、左辺の消滅も結論されます。

 以上により、H90\( (w,2)\) が体の構成問題に帰着されました。この問題に対する Voevodsky の答えは、シンボル \( \underline{a}=\{ a_1,\dots ,a_w\} \) から定まる 2 次超曲面 \( Q_{\underline{a} } \) の関数体です。\( K_w^M(k(Q_{\underline{a}} ) )/2 \) の中で \( \{ a_1,\dots ,a_w\} \) が 0 になることは以前の記事でも確認しました。ガロアコホモロジーの制限写像単射性が主要な課題です。

これは次の記事で説明します。

 

残った課題:\( a_1,\dots ,a_w \) を \(k^*\) の任意の元とするとき、ガロアコホモロジー写像 \[ H^{w+1,w}_{et}(Spec(k),\mathbf{Z}_{(2)}) \to H^{w+1,w}_{et}(Spec(k(Q_{\underline{a}}) ),\mathbf{Z}_{(2)}) \] が H90\( (w-1,2) \) のもと単射である。