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メビウス論文 Type I case の証明の検討

https://dx.doi.org/10.4007/annals.2012.175.2.3

のp.549を読んでいます。

 

個数$\gg \delta ^{O(c_1)} K$個以上の$k\in (K,2K] $に対して不等式 \[ \mathbb E _{w, N^{0.9}<kw\le N  } 1_{P}(kw) F(g(kw) ) \gg \delta ^{O(c_1)} \] が成り立つ状況を考えています。$P\subset [N]$は等差数列です。$c_1>0$は定理2.1の$c>0$に対応する、あとで決める小さな正の数です。

初めから$kw\in P$となる$w$だけをトビトビにとって、変数変換することにより、次の形の不等式を考えていることになります。bとlはPから決まる数です:\[ |\sum _{w'\in \text{an interval }I_k} F(g (kb+klw' ) ) | \gg \delta ^{O(c_1)} \frac{N}{kl}  \] 右辺の因子$\frac N{kl}$は$w'$が動く区間$I_k$の長さと同程度です。$F$の中身を$\tilde g_k(w') $と書くことにします。この不等式は、$\tilde g_k(w')$ ($w'\in I_k$)が$\delta ^{O(c_1)}$-等分布ではないことを$F$が目撃している式と見ることができるので、Quantitative Leibmanにより水平指標$\psi _k \colon G\to (G/\Gamma )_{ab}\to \mathbb R/\mathbb Z$で大きさ$\ll \delta ^{O(c_1)}$なものがあって、不等式 \[ \Vert \psi _k\circ \tilde g_k \Vert _{C^{\infty}[N_k] } \ll \delta ^{-O(c_1)} \] が成り立ちます。

$g_k(w)=g(kw)$とおきます。したがって$\tilde g_k (w) = g_k (b+lw)$ということになります。$C^\infty [N]$ノルムの一般論により、次の形の不等式を得ます(「トビトビの値を観測すれば、多項式の振る舞いはだいたい分かる」):ある整数$q_k\ll \delta ^{-O(c_1)}$があって\[ \Vert q_k \psi _k\circ g_k \Vert _{C^{\infty}[N_k] } \ll \delta ^{-O(c_1)} \] 鳩の巣原理により、$q_k\psi _k$の部分(可能性は$\delta ^{-O(c_1)}$通り)は$k$によらず共通の$\psi $と考えて良いです。

ノルム$\Vert -\Vert _{C^\infty [N_k] } $の定義により(ほんとはちょっとだけ違うけどErratum p.4を参照)、この最後の条件は、係数を使って \[ \psi \circ g (w) = \beta _d w^d + \dots + n_0 \] と書くことにすると$\psi \circ g_k (w)$の$j$次の係数$\beta _j k^j$なので、各$0\le j\le d$に対して個数$\gg \delta ^{O(c_1)}K $個の$k\in (K,2K]$があって \[ \Vert k^j \beta _j\Vert _{R/Z} \ll  \frac{ \delta ^{O(c_1) } }{ (N / K)^j }  \] が成り立つということになります。($N_k = N/(kl) \gg N/K $を使いました。)

この状況を多項式写像$[K]\ni k\mapsto \beta _j k^j \in \mathbb R $に関するものと見てLemma 4.5を適用すると、ある整数$Q\ll \delta ^{-O(c_1) }$があって \[ \Vert Q \beta _j\cdot k^j \Vert _{C^\infty [K] } \ll \delta ^{-O(c_1) } / (N/K)^j   \] が成り立ちます。$C^\infty [K]$ノルムの定義により$\Vert Q \beta _j \Vert _{R/Z } \ll \delta ^{-O(c_1) } / N^j$と同じことです。さらに$\mathbf j$に関する公倍数をとることで、$Q$はすべての$j$に共通として良いです。これがすべての$j$について成り立つとは、とりもなおさず多項式としてのノルム評価 \[ \Vert Q \psi \circ g \Vert _{C^\infty [N] } \ll \delta ^{-O(c_1) }  \] が成り立つということです。そこで$[N]$の$\delta ^{Cc_1}$倍の長さの(短いが、割合は正にとどめた)区間$[N']$に制限すれば、そこ上では$g$が$\delta $-等分布でないことが結論できます。

$C$を十分大きく取って$O(c_1)$たちに出てくる係数を全員追い越すようにとり、そのうえで$c_1:=C^{-1}$と十分小さくとります。(つまり$O(c_1)$項がすべて$\le 1$になるように$c_1$を小さくとるというのと同じことですね。)このとき$[N']$は$[N]$の中で割合$\delta $を占めます。すると$g$が完全$\delta $-等分布としてあった仮定に矛盾します。◼️