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トーラス上の楕円型作用素のregularity

ソボレフノルムが有限な級数からなる空間$H_s$は、$s\in \mathbb Z$が大きくなるほど小さくなる($C^\infty $級関数に近づく)のでした。記号$H_{-\infty}:= \bigcup _{s\in \mathbb Z} H_s$を思い出しておきましょう。

定理

$L$をトーラス$(S^1)^n$上の$l$階の楕円型微分作用素とする。もしも与えられた$u\in H_{-\infty }$が$Lu \in H_{t}$を満たすならば、$u\in H_{t+l}$が成り立つ。

標語的には「楕円型微分方程式の解になっていれば、微分可能性が上がる」と表現するようです。Hodgeの定理を証明するための我々の戦略を思い出せば、目標に近づいている感じがすると思います。

証明 仮定から$u$は或る$H_s$に属しているので、一般に$u\in H_s$かつ$Lu\in H_{s-l+1}$のもとで$u\in H_{s+1}$を示せば十分です。

微分可能性が1個上がる」ことを示すのに便利な道具として、平行移動作用素があります。私がずっと参照している本多氏のノートでは102-103ページに載っています。$h\in \mathbb R^n$とします。関数$\phi \in \mathcal C^{\infty } ( \mathbb R^n / 2\pi \mathbb Z^n )$の平行移動$T_h \phi $を \[ x\mapsto \phi (x+h)\] で定義します。級数$u(x)=\sum _{\xi }u_{\xi }e^{ix\cdot \xi }$に対しても、平行移動$T_h u$がしかるべく定義できます。明示的には、\[ (T_h u )(x) = \sum _{\xi } (e^{ih\cdot \xi }u_{\xi } ) e^{ix\cdot \xi } \] です。そして、差分商$u^h$を \[  u^h := \frac{T_h u - u}{|h|} = \sum _{\xi } \frac{e^{ih\cdot \xi } -1 }{|h|} u_\xi e^{ix\cdot \xi } \] で定義します。

補題

$u\in H_s$に対して、$| u^h | _{s} \le |u|_{s+1}$が成り立つ. 特に、もしも$u\in H_{s+1}$ならば$| u^h |_s$は$h\in \mathbb R^n \setminus \{ 0\} $によらず一様に抑えられる。

逆に、$|u^h|_s$が$h$に関して一様に有界であるとき、$u\in H_{s+1}$が成り立つ.

 

前半はわりと簡単で、実質的な主張は後半です。後半の証明は、ソボレフノルムの定義$|u |_{s+1} := \sum _{\xi } (1+|\xi |^2)^{s+1} |u_\xi |^2$に従って、無限級数の収束を頑張って示す感じです。$u^h $の係数が$\frac{e^{ih\cdot \xi }-1}{|h|}u_\xi $で、$0<|h|\ll 1 $のもとで、これがだいたい$i\xi \cdot u_{\xi }$になるので、指数$s$が+1されそうな雰囲気は感じ取れるかと思います。

補題を用いて定理を証明します。$|u^h|_s$を$h$に依らずに抑えるのが目標です。微分作用素$L$の差分商$L^h$をしかるべく定義すると、公式 \[ L(u^h)=(Lu)^h - L^h (T_h u )  \] が成り立ちます。明示的には、$L=\sum _{\alpha }a_\alpha  (x) D_\alpha $ のとき $L^h = \sum _\alpha \frac{a_\alpha (x+h)-a_\alpha (x) }{|h|} D_\alpha $ です。同じことですが、$L^h (u) := \Bigl( T_h L(T_{-h}u) - L (u) \Bigr)  /|h| $ と思ってもらってもよいです(平行移動の方向がややこしいですが、これで合っています)。

前回のFundamental Inequalityを$|u^h|_s$に適用します。$L$と$s$のみに依存する一様な定数を$C$で書くことにすると:\[ |u^h|_s \le C |L(u^h)| _{s-l} + C|u^h|_{s-l} . \] これにさっきの恒等式$L(u^h)=(Lu)^h - L^h (T_h u )$を適用して \[ = C |(Lu )^h |_{s-l} +C |L^h(T_h u)|_{s-l} + C |u^h|_{s-l} . \] 補題の前半により第1項と第3項は次のように抑えられます: \[ \le C |Lu  |_{s-l+1} +C |L^h(T_h u)|_{s-l} + C |u|_{s-l+1}  \] $L^h$は$l$階の微分作用素で、係数たちは$h$によらず抑えることができる(係数たちは可微分ですしコンパクト空間上で考えていますよね)ので、中央の項は$\le C |T_h u |_{s} = C |u|_s $と抑えられます(定数$C$は必要ならば大きいものに取り替えます)。こうして$|u^h|_s$が$h$に依らない量で抑えられましたから、補題により$u\in H_{s+1}$がわかりました。◼️

 

次の記事からは、いよいよトーラス$(S^1)^n$からリーマン多様体$M $に話が戻ります。