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無限圏概観:Cartesianファイブレーション

Grothendieckによる圏のファイブレーションの概念の無限版です。

念の為ですが、圏のファイブレーションの典型例は、位相空間と、その上の層の組 $(X,\mathcal{F})$ からなる圏です。組の間の射 \[
(X,\mathcal{F}) \to (Y,\mathcal{G})
\] は、連続写像 $f\colon X\to Y$ と $X$ 上の層の写像 $\mathcal{F}\leftarrow f^*\mathcal{G}$ の組 (故意に逆向きの射を考えている) と定義します。層の射の部分は、随伴により $f_*\mathcal{F}\leftarrow \mathcal{G}$ を考えると言っても同じです。

 

いま書いた圏を $C$ とでも記します。位相空間の圏は $Top$ と書きましょう。このとき層の情報を忘れる関手 $C\to Top$ は圏のファイブレーションとなっています。これは、今の状況に即していうと、空間の写像 $f\colon X\to Y$ と $Y$ 上の層 $\mathcal{G}$ が与えられたとき、$X$ 上の層 $\mathcal{F}$ で $f$ の持ち上げであるような $C$ の射 \[  (X,\mathcal{F}) \to (Y,\mathcal{G}) \] のうちで普遍的なもの (終対象) があるということです。この終対象は $\mathcal{F}:= f^*\mathcal{G}$ です。

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 なぜファイブレーションと呼んでいるかというと、各空間 $X$ に対して、そのファイバー $C _{X}$ を考えると、空間の写像 $f\colon X\to Y$ に沿った「引き戻し関手」 $f^*\colon C_Y \to C_X$ が定義できることからです。圏の各点の上に圏が並んでいる感じになっているのです。これは正確な数学的主張にでき、Grothendieck 構成とよばれ、通常の圏の場合は SGA1 の記事「Catégories fibrées et descente」で説明されています。無限圏の場合は下の「straightening (まっすぐ化)」のところで説明します。

 無限圏の場合の定義

定義 無限圏の射 $p\colon \mathcal{C}\to \mathcal{D}$ が Cartesian ファイブレーションであるとは、任意の $n\ge 2$ と $1\le k< n$ に対して次の形の図式が必ずナナメの補完を持ち、\[  \begin{array}{ccc}
\Lambda ^n_k &\to & \mathcal{C} \\
\downarrow && \downarrow \\
\Delta ^n &\to &\mathcal{D} ,
\end{array}\] 任意の $\mathcal{D}$ の射 $\bar{f}\colon \bar{x}'\to \bar{x}$ と $\bar{x}$ に写る対象 $x\in \mathcal{C}$ に対して、次の無限圏が終対象を持つことである:\[
\mathcal{C} _{/\ x} \times _{\mathcal{D} _{/\ \bar x }} \{ \bar f \} .
\] (このとき、終対象を指定すると $\mathcal{C}$ の中の射が指定されるわけですが、こうして得られるような射を $p$-Cartesian な射と呼んでいます。射を表す矢印が「$\mathcal{D}$ の方向に水平に走っている」感じでしょうか。)

これは、Joyal のモデル構造におけるファイブレーションであると言う条件よりも強い条件になっています。(Higher Topos Theory 2.0.0.5)

 前の記事で標識付き単体的集合 $(X,\mathcal{E})$ の概念を導入しましたが、単体的集合$S$上の標識付き単体的集合の圏 \[ (Set ^+_\Delta )_{/S}\] において fibrant な対象は次のような標識付き単体的集合 $(X,\mathcal{E})$ に他ならないことが判明します (Higher Topos Theory 3.1.3.8)。

  • 構造射 $p\colon X\to S$ はCartesian ファイブレーションである。
  • $\mathcal{E}$ は $p$-Cartesian  な射の集合に一致する.

また、Cartesian ファイブレーションの定義において、ひとつ目の条件は、通常の圏の場合では考慮されていませんでした。じつは、通常の圏の関手 $C\to D$ が与えられたとき、脈体に誘導される写像 $N(C)\to N(D)$ に対して、この条件は常に成り立ちます。通常の圏の脈体に対しては、$\Lambda ^n_k \to N(C)$ がつねに $\Delta ^n\to N(C)$ に一意に補完されることがポイントです($1\le k< n$)。

 

 

まっすぐ化

通常の圏論で、ファイブレーション $C\to D$ が与えられたとき、それを圏に値を持つ前層 $D^{op}\to Cat $ (2-関手) に組み直す手続きがありました。(雰囲気的には、対象 $d\in D$ に対して、そのファイバーが前層の値です。) これをまず思い出しておきましょう。

 

...

 

次に無限圏の場合です。

定理 $S$ を単体的集合とする。このときQuillen同値がある:\[ ( Set _\Delta ^+ )_{/S } \rightleftarrows (Set _\Delta ^+ )^{\mathfrak{C}[S]^{op }} . \]

右辺は関手のなす無限圏 $Fun (S^{op},Cat _\infty )$と無限圏として同値だそうです。 これは Higher Topos Theory の3.2.0.1です。

 

この随伴を説明するには、まず Higher Topos Theory §2.2.1 の標識無し版の構成が必要です。そのあと §3.2 でどのように仕上げられるか見てみましょう。

 

$X\to S$を単体的集合の写像とし、$\phi\colon \mathfrak C [S]\to \mathcal C^{op}$を単体的圏どうしの関手とします。$X\to X^{\triangleright }$を$X$の右コーンとします。このとき何なのかわかりませんが、次のpushoutを考えます。\[ \begin{array}{ccc} \mathfrak C [X]&\to &\mathfrak C [X^{\triangleright }] \\ \text{given}\downarrow & push &\downarrow  \\ \mathcal C ^{op} &\to &\mathcal C^{op} _X\end{array}  \] この状況を$\mathcal C^{op}$から$ X^{\triangleright } $のコーンの頂点$v$へのcorrespondenceと見なすそうです。

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C^{op}_X

Correspondenceとは、§2.3.1によると圏なら関手$C^{op}\times C' \to Set $のことだそうです。無限圏だと$C$から$C'$へのcorrespondenceとは無限圏$\mathcal M $と$F\colon \mathcal M\to \Delta ^1$の組で、同一視$F^{-1}(0) \simeq C$, $F^{-1}(1)\simeq C'$を具えたものだそうです。$\mathcal C^{op}_X$が$\mathcal C^{op}$から$v$へのcorrespondenceになっているというのは、$\mathfrak [-]$のことを一瞬忘れて絵を描くと、そんな感じがします。

 

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correspondence

そして、このようなcorrespondenceが与えられたときはいつでも、単体的圏の間の関手 \[ St_{\phi } X \colon  \mathcal C \to Set _{\Delta } \text{ つまり }St_{\phi }X \in (Set _{\Delta })^{\mathcal C} \] を対応させることができるそうです。$X$に依存するので記号に$X$を含めています。この場合は明示的には、\[ (St_{\phi }X)(C)=Map _{\mathcal C_X^{op}}(C,v)  \] となります。この状況でさらに$X$を変えることを考えます。$X\to X'$があると関手$\mathcal C_X^{op} \to \mathcal C_{X'}^{op} $があるので、写像の空間Mapどうしの間にも同じ向きの関手が誘導されます。こうして、$X\mapsto St_\phi X$という対応は関手 \[ St_\phi \colon Set _{\Delta } /S \to (Set _{\Delta })^{\mathcal C}    \] を与えます。これを$\phi \colon \mathfrak C [S]\to \mathcal C^{op}$に付随するまっすぐ化関手と呼びます。

$St_\phi X$はpushoutを使って定義しているので$X$に関するcolimitと交換するっぽいです。このことから随伴関手定理により、$St_\phi \colon Set_{\Delta }/S \to (Set _{\Delta })^{\mathcal C}$は右随伴を持ちます。これを脱まっすぐ関手$Un_\phi $と呼びます。明示的にはどうなるんでしょうか?見当がつかないので、とりあえず意味ありげなものを書いておいて、後日見直したいと思います。与えられた関手$\mathfrak C [S]\to \mathcal Set _\Delta $に対して次のような単体的集合$/S$を対応させます。$S$の$n$単体$\Delta ^n \to S $が与えられたとき、第$n$頂点$v_n$は$\mathfrak C [S]$の対象を定めます。これを与えられた関手$\phi \colon \mathfrak C [S]\to Set _\Delta $で送ることで、単体的集合を得ます。そして単にこれの頂点集合をとってみてはどうでしょうか。いまのプロセスは明らかに$\Delta ^n$たちに関して関手的なので、とりあえず$S$上の単体的集合を定義してはいると思います。

頂点集合だけをとっては情報が相当失われてしまうことに懸念があるかもしれませんが、答えは2つほどあります。ひとつは、個々の$\Delta ^n\to S$だけを見ていると情報が失われたように見えるが、$\Delta ^n$を動かすと、ある程度の情報は拾えているかもしれないというものです。二つ目は、脱まっすぐ化と言っているからには、情報が失われるのは当然だと言う見方です。この辺も後日見直したいです。

以上で、とにかく随伴 \[  Set _\Delta /S \overset{St_\phi } {\underset{Un_\phi }{\rightleftarrows } } (Set _\Delta )^{\mathcal C}  \] ができたことにします (HTT §§2.2.1, 2.2.2)。われわれの本来の目的は、これを標識付き$Set ^+_\Delta $の状況で行うことです。これは次以降の記事で一緒に考えていきましょう。