Steenrod 篇:§6後半. \( B\mu _l \) のコホモロジーの環構造
\( H^{*,*}(B\mu _l,\mathbf{Z}/l )\) の 加群としての構造を書き下しました(階数 2 の自由加群で、1 と u を基底とする)。環構造を知るには、あとは \[ u^2\in H^{2,2}(B\mu _l,\mathbf{Z}/l)\] が何かを明らかにすればよいです。\( l \) が奇素数ならば、これは積の反対称性から 0 となります。したがって \( l=2\) の場合のみが問題となります。われわれは Milnor 予想を考えたいわけなので、われわれにとってはこちらがメインです。このとき基礎体は標数 \( \neq 2\) ということになります。標数と素なねじれ係数で考えているので、通常、基礎体を完全体と仮定しても大丈夫です。
\( H^{1,1}\) 成分の計算 \( H^{0,1}\) 成分の計算 まとめ
前回の構造定理により、\( u^2 \) が属している群は次のように分解します。(係数はつねに \( \mathbf{Z}/2\) なので省きます。)
\[ H^{2,2}(B\mu _l )= H^{2,2}(k) \oplus H^{1,1}(k)\cdot u \oplus H^{0,1}(k)\cdot v \] 左辺の元である \( u^2\) の右辺での成分を求めることが問題です。\( u \) は基点では 0 になることにしていたので、\( H^{2,2}(k) \) 成分は 0 です。\( \mathbf{Z}/2 \) 係数なので
\[ \begin{array}{l} H^{1,1}(k)=k^*/(k^*)^2 ,\\ H^{0,1}(k)=\mu _2(k)=\{ \pm 1 \} \end{array} \] であることを思い出しておきましょう。\( u^2\) の成分の計算は、直和因子ごとに計算しやすいスキームへの引き戻しを考察することによりなされます。
\( H^{0,1}\) 成分の計算
\( k\) を分離閉包まで拡大すると、\( H^{1,1} \) 成分の群は 0 となり、\( H^{0,1} \) 成分の群は \( \{ \pm 1\} \) のままで変わりません。そこで \( H^{0,1} \) 成分を計算するには、\( k\) が分離閉体の場合に、\( u^2\in H^{2,2}(B\mu _2) \) が自明な元であるか、ないかを確かめればよいです。
その結果、\( u^2\neq 0 \) が分かります。[Reduced power, Lem.6.9]
この証明は étale コホモロジーへの比較写像を考えて、そこで \( u^2\) が 0 でないということを用います。Motivic での計算と étale での計算に用いる Bockstein 写像が一致するという事実に、\( \sqrt{-1}\in k \) という条件を使うようなのですが、詳しくは勉強中です。
\( H^{1,1}\) 成分の計算
われわれの \( B\mu _l \) は \( (\mathbf{A}^n-\{ 0\} )/\mu _l \) の極限 \( n\to \infty \) として定義しているのでしたが、その \( n=1 \) 部分に着目して、射
\[ \mathbf{A}^1-\{ 0\} \to (\mathbf{A}^1-\{ 0\} )/\mu _l \to B\mu _l \] を考えます。\( \mathbf{A}^1-\{ 0\} \) に基点を \( \{ 1\} \) で与えて被約ホモロジー \( \tilde{H}^{*,*}(\mathbf{A}^1-\{ 0\} )\) を考えます。いつものように同型
\[ \tilde{H}^{*,*}(\mathbf{A}^1-\{ 0\} )\cong H^{*-1,*-1}(k) \] がありますので( \( \mathbf{A}^1\) から1点を抜く局所化完全系列と思ってもよいし、\( Spec (k)\) 上の自明な直線束のThom同型と思ってもよい)、以下の議論で関係のある群を書き下しておくと
\[ \begin{array}{l} \tilde{H}^{1,1}(\mathbf{A}^1-\{ 0\} )= \frac{k[t,{1}/{t}]^*}{k^*} / 2 \cong \mathbf{Z}/2 , \\ \tilde{H}^{2,1}(\mathbf{A}^1-\{ 0\} )=\frac{\mathrm{Pic}(\mathbf{A}^1-\{ 0\} )}{\mathrm{Pic}(k)}=0, \\ \tilde{H}^{2,2}(\mathbf{A}^1-\{ 0\} )=H^{1,1}(k)\cdot [t]=k^*/(k^*)^2\cdot [t] \end{array} \] です。
\( B\mu _l \) のコホモロジーの計算に使ったコファイブレーション列の \( pt \hookrightarrow \mathbf{P}^\infty \) による底変換を考えます:
\[ \begin{array}{ccccc}(B\mu _2)_+ &\to &\mathscr{O}_{\mathbf{P}^\infty }(-2)_+ &\to &Th_{\mathbf{P}^\infty }(\mathscr{O}(-2)) \\ \uparrow &&\uparrow &&\uparrow \\ \left( (\mathbf{A}^1-\{ 0\} )/\mu _2 \right) _+ &\to &(\mathscr{O}_{pt}(-2) )_+&\to & Th_{pt}(\mathscr{O}(-2)) \\\uparrow && && \\ \mathbf{A}^1-\{ 0\} &&&&\end{array} \] これの誘導するコホモロジーの間の写像のうち、次の部分を見ます:
\[ \begin{array}{ccc} u\in H^{1,1}(B\mu _2 ) &\to & H^{0,0}(\mathbf{P}^\infty )=\mathbf{Z}/2 \\ \downarrow &&\downarrow \\ H^{1,1}(\mathbf{A}^1-\{ 0\} / \mu _2 ) &\xrightarrow[(a)]{} &H^{1,1}(Th_{pt}(\mathscr{O}(-2)))=H^{0,0}(pt )=\mathbf{Z}/2 \\ \downarrow _{(b)}& & \\ \tilde{H}^{1,1}(\mathbf{A}^1-\{ 0\} )= \mathbf{Z}/2& & \end{array} \] すでに見たように、\( u \) を右に写すと non-zero (つまり \( 1\in \mathbf{Z}/2 \) )です。Thom同型の構成から、じつは写像 (a), (b) は同じ写像です。したがって u の \( \tilde{H}^{1,1}(\mathbf{A}^1-\{ 0\} ) \) への制限は t で代表される non-zero な類であることが分かります。
次の計算から、\( u^2\) の \( H^{1,1}(k)\cong k^*/(k^*)^2 \) 成分は \( [-1] \) であることが結論されます。
[Reduced power, Lem.6.8]: コホモロジー群 \[ \tilde{H}^{2,2}(\mathbf{A}^1-\{ 0\} )\cong k^*/(k^*)^2 =k^* /(k^*)^2 \cdot [t] \] において、等式
\[ [t]\cdot [t] = [-1]\cdot [t] \] が成り立つ。
証明. 主張を若干強めて、\( \mathbf{Z} \) 係数コホモロジーでこの等式を示すことを考えます。
\( k(t) \) を \( \mathbf{A}^1 \) の関数体とすると、(必要なら k を完全体と仮定して)制限写像 \[ H^{2,2}(\mathbf{A}^1-\{ 0 \} ,\mathbf{Z} ) \to H^{2,2}(k(t),\mathbf{Z}) \] は単射です(核が閉点の \( H^{0,1}(-,\mathbf{Z}) \) で生成されるが、これらは零であるため)。が、\( H^{2,2}(k(t),\mathbf{Z})\cong K^M_2(k(t)) \) の中では等式 \( \{ t,t \} = \{ 1,t\} \) が成り立つことは基本的事実なので、主張が従います。\( \blacksquare \)
まとめ
以上で \( u^2\in H^{2,2}(B\mu _2)=H^{2,2}(k)\oplus H^{1,1}(k)\cdot u\oplus H^{0,1}(k)\cdot v\) の成分が計算できました。結果は
\[ u^2= [-1]\cdot u + [-1]\cdot v \] となります。ここで、はじめの -1 は \( k^*/(k^*)^2\) の中で考え、2番目のものは \( \mu _2 (k)=\{ \pm 1\} \) の中で考えています。よってコホモロジー環としては
\[ H^{*,*}(B\mu _2,\mathbf{Z}/2)= \frac{ H^{*,*}(k,\mathbf{Z}/2) [ [ u,v ] ] }{ (u^2=[-1]u+[-1]v) } \] という表示を得ます。
論文では \( BS_l \) のコホモロジーも計算していますが、\( l=2 \) の場合は \( \mu _2=S_2= \{ \pm 1\} \) なので、興味のある場合は付け加えるものは無いということになります。今日はとりあえずここまで。