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Steenrod 篇:§9. つづき

ここではちょっと退屈な、\( P^i,B^i \) たちの相互の関係を説明します。そんなに興味のない人は、非自明な \( Sq^{i}\) が現れる範囲の図式だけ見て進んでいただければいいと思います。

 

写像の存在範囲Bockstein との関係式   その他

 

 

写像の存在範囲

  一般に、重さが減る方向のコホモロジー作用素 \( \tilde{H}^{*,*}(-)\to \tilde{H}^{*,*-i}(-) \) は 0 しかありません。これはつまり、\( K_{n,R}=R\otimes \frac{\mathbf{Z}_{tr}(\mathbf{A}^n)}{\mathbf{Z}_{tr}(\mathbf{A}^n-0)} \) の重さ \( < n \) のコホモロジー 
\[ \tilde{H}^{*,i}( \mathbf{A}^n/(\mathbf{A}^n-0), R)\quad i<n \] が 0 ということです。そうなる理由ですが、この群は、ホモトピー不変性から \( \tilde{H}^{*-1,i}(\mathbf{A}^n-0, R) \) であり、したがって台付きコホモロジー
\[ {H}^{*,i}_{\{ 0\} }(\mathbf{A}^n,R) \xleftarrow[\cong]{Thom}\tilde{H}^{*-2n,i-n}(Spec(k),R) \] になります。が、どんな空間に対しても、負の重さのコホモロジーは(定義により)0 でした。
 このことから負の番号の \( P^i,B^i \) は、一応定義はされていたものの零写像にほかならなかったことになります:\[  P^i=0,\ B^i=0 \quad i<0. \]

 つぎに、\( P^0\colon \tilde{H}^{p,q}(-)\to \tilde{H}^{p,q}(-) \) は何でしょうか。これは上の計算で \( *=2n, i=n \) の場合を考えると \( H^{0,0}(Spec(k),\mathbf{Z}/l)=\mathbf{Z}/l \) の元に対応します。この元を a とでも呼びましょう。

 a を決定するには、具体的な空間 \( X\) とコホモロジー類 \( u\in \tilde{H}^{p,q}(X)-\{ 0\}  \) で \( P_l(u)\) が計算できるものがひとつでも見つかれば十分です。その場合の \( P^0(u) \) が \( u\) の何倍かを読み取ればよいからです。論文では、任意のスキーム X と直線束 M に対して、その類 \( e(M)\in \tilde{H}^{2,1}(X)\) の像 \( P_l(e(M)) \) が計算できています [Reduced power, Lem.6.17]。この結果、a=1 と求まっています:
\[  P^0=id. \]

以上をまとめると、\( \mathbf{Z}/2 \) 係数で \( \tilde{H}^{2d,d} \) から出ている非自明な写像は次のような感じになります。一般の \( \tilde{H}^{p,q} \) 上でもだいたい似たような bound がありますが、煩雑になるので必要になったときに改めて取り上げたいと思います。
\[ \begin{array}{crl} & & \tilde{H}^{4d,2d}\\
&{}^{Sq^{2d}=(-)^2}\nearrow & \tilde{H}^{4d-1,2d-1} \\
& {}_{Sq^{2d-1}}\nearrow & \vdots  \\
&{}_{Sq^1=\beta }{}^{\vdots }\to & \tilde{H}^{2d+1,d} \\
\tilde{H}^{2d,d}&\to & \tilde{H}^{2d,d}. \\
&{}_{Sq^0=id} & \end{array}  \] 最高次の \( Sq^{2d} \) がコホモロジー類を 2 乗する作用素で、\( Sq ^0 \) が恒等写像なのは意味がわかるとして、その中間の作用素たちが何者なのか? という疑問がわくことと思いますが、この議論はこの MathOverflow の記事に譲ることにします。

 \( Sq^1 \) が Bockstein 写像 \( \beta \) であることは次に説明します。

 

Bockstein との関係式

 \( C_{i+1},D_i \) の定義式 \[ P_l(w)=\sum _{i} C_{i+1,d}(w)cd^i +D_{i,d}(w) d^i  \] に Bockstein 写像 β を適用します。§8 の主結果は、左辺が 0 になることでした。c のとり方から、β(c)=d がなりたち、とくに β(d)=0 もわかります。β が Leibniz則(第 1 次数で符号が決まる)を満たしていたことも考えると、β を施したものは
\[ 0=\sum _{i\ge 0} \beta (C_{i+1,d}(w))\cdot cd^{i}-C_{i+1,d}(w)\cdot d^{i+1}+\beta (D_{i,d}(w)) d^i   \]
となります。\( cd^i ,d^i \) は基底だったので、
\[ \beta C_{i+1,d}(w)=0,\quad  \beta (D_{i+1,d}(w))=C_{i+1,d}(w) \quad i\ge 0 \]
となります。P, B がわに翻訳すると
\[ \beta \circ  P^i=B^i,\quad \beta \circ B^i=0  \]
となります。つまり
\[ \beta \circ Sq^{2i}=Sq^{2i+1},\quad \beta \circ Sq^{2i+1}=0  \]
ということですね。特に、\( P^0=id \) だったので、\( B^0=\beta \) ということになります。

その他

 前の記事の関係式 (*) (Cartan 公式) を書き直すと、次の関係式となります。

Cartan 公式:
\[ \begin{array}{ccl} Sq^{2i}(u{}_{\Lambda }v)&=& \displaystyle\sum _{r+s=i}Sq^{2r}(u){}_{\Lambda }Sq^{2s}(v)+τ \sum _{r+s=i-1}Sq^{2r+1}(u){}_{\Lambda }Sq^{2s+1}, \\
Sq^{2i+1}(u{}_{\Lambda }v)&=& \displaystyle\sum _{r+s=i}\bigl\{ Sq^{2r}(u){}_{\Lambda }Sq^{2s}(v)+Sq^{2s}(u){}_{\Lambda }Sq^{2r+1} \bigr\} \\ &&+\rho \displaystyle\sum _{r+s=i-1}Sq^{2r+1}(u){}_{\Lambda }Sq^{2s+1}(v).  \end{array} \]

 

 

 さいごに、総冪作用素 \( P_2 \) の添字を少しずらした感じの作用素
\[ R\colon \tilde{H}^{*,*}(-)\to \tilde{H}^{*,*}[ [ c,d, d^{-1}] ] /(c^2=\rho d+τ c) \] を
\[ R(u):= \sum _{i\ge 0} Sq^{2i-1}(u)cd^{-i}+Sq^{2i}(u)d^{-i} \] で定義します(和は有限和になります)。これの意味は、今はわからなくても構いません。