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Milnor 予想篇:論文「Motivic cohomology with \( \mathbf{Z}/2\)-coefficients」

前の記事までで、論文「Reduced power operations in motivic cohomology」の本質部分はさらったと思われるので、次の記事からは、Milnor 予想 (Bloch-加藤予想の \( \mathbf{Z}/2\) 係数の場合) を扱った論文「Motivic cohomology with \( \mathbf{Z}/2\)-coeffieicnts」について書いていきたいと思います。

 

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 Bloch-加藤予想は、写像 \( K_*(k)/n \to H^{*}_{Gal}(k,\mu _n ^{\otimes *} ) \) が全単射だと述べるものですが、(単射性の?)  証明に、体拡大をさがしてくるステップがあります。

 左辺の元 \( \underline{a}= \{ a_1 , \dots , a_m\} \) ごとに、うまい拡大体 \( k\subset K_{\underline{a}} \) を探してきて、\( \underline{a} \) が体拡大後に 0 になり、ガロアコホモロジー写像 \[ H^{*}_{Gal}(k,\mu _n ^{\otimes *} )\to H^{m}_{Gal}(K_{\underline{a}} ,\mu _n ^{\otimes m} )  \] は単射であるように調整するのです。

 この拡大体は、成分 \( a_1,\dots , a_m\) から定まる適当な多様体の関数体としてとってくることになるのですが、係数 \( \mathbf{Z}/n \) が \( \mathbf{Z}/2\) の場合は、望まれる性質を持つ多様体が二次形式の理論を使って作れます。

 これが、Milnor 予想が一般の Bloch-Kato よりも数年先にできた理由のようです。

 

 

 

 


 

上で少し触れた帰着の議論について、やや詳しく述べます。この部分は将来該当する記事に移植される見込みです。

 

Hilbert の定理 90 とは、任意の体 k に対して次のガロアコホモロジーが消える \[
\bigl( H^2_{et}(k, \mathbf{Z} (1) ) = \bigr) H^1_{et}(k,\mathbf{G}_m) = 0
\] という内容 (が一つの定式化である) の定理ですが、これを次の形で一般化する高次の Hilbert 90: 任意の整数 \( n\ge 1 \) に対して \[
H^{n+1}_{et} (k, \mathbf{Z} (n) ) =0 
\] という主張を考えます。これは、すべての素数 \( l\) に対して、\( \mathbf{Z}_{(l)} \) 係数版 \[
H^{n+1}_{et} (k, \mathbf{Z}_{(l)} (n) ) =0 \tag{H90(n,l)}
\] が成り立つことと同値です。

 

非自明な定理として、H90(n,l) が \( \mathbf{Z}/l \) 係数の Bloch-Kato 予想を導くことが知られています。これは簡単には説明できませんが、図式 \[\begin{array}{ccccc}
\bigl( K^M_n(k)/l =\bigr) &H^n_{N i s}(k,\mathbf{Z}/l (n) ) &\to &H^{n+1}_{N i s} (k, \mathbf{Z}_{(l)} (n) ) &\bigl( =0 \bigr) \\
&\downarrow &&\downarrow &\\
&H^n_{et}(k,\mathbf{Z}/l (n) ) &\to &H^{n+1}_{et} (k, \mathbf{Z}_{(l)} (n) ) &\to\cdots 
\end{array}\] で我々の関心のある写像の近くにある群なので、いったん認めてください。

 

H90(n,l) は、次のような十分大きな体では成り立つことが、先に示せます。

定理 \(k\) が次数が \(l\) と素な代数拡大を持たず、\( K^M_n(k) \) が \( l\)-可除であると仮定する。このとき H90(n,l) が \(k\) に対して成立する。

 この主張は、非自明ながら Merkurjev-Suslin などのアイデアやテクニックの枠内でできるようです。本ブログでも、いつか取り上げます。

 一般の \(k\) に関する H90(n,l) の証明は、次のような構成がもしあればできることになります。

体の構成問題 与えられた体 \( k\) と、\( k^*\) の元の組 \( a_1,\dots ,a_n \) に対して、拡大体 \( k\subset K_{\underline{a} } \) であって、コホモロジー写像 \[  H^{n+1}_{et}(k,\mathbf{Z}_{(l)} (n) )\to H^{n+1}_{et}(K_{\underline{a} },\mathbf{Z}_{(l)} (n) ) \] が単射かつ \( \{ a_1,\dots ,a_n\} \in K^M_n(K_{\underline{a} } )/ l \) が 0 であるものを構成せよ。

 もしもこの構成問題が一般に解ければ、k の拡大の transfinite な合成 \( k\subset K\) であって、ひとつ前の定理の仮定をみたすものが見つけられます。

 つまり、体の構成問題をすべての symbol \( \{ a_1,\dots ,a_n \} \in K^M_n(k) \) に対して (ある順序数に沿って) おこない、得た体の prime-to-\(l\) 代数閉包をとります。(この閉包操作で \( \mathbf{Z}_{(l)} \) 係数コホモロジー写像単射。) これを交互に transfinite 回くりかえすと、最後に得られるものは多分条件を満たしています。