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単連結な冪零リー群についての事実まとめ

Baker-Campbell-Hausdorffの定理というものがあります (Wikipedia)。$G$をリー群、$\mathfrak g$をそのリー環、$X\mapsto e^X$をその指数関数とするとき、$X,Y\in \mathfrak g$が十分原点に近い範囲で、\[ e^X e^Y =e^Z \text{ と書く時, }Z= X+Y+\frac 1 2 [X,Y] + \frac 1{12} [X,[X,Y] ] - \cdots  \] という公式です。後ろの項も、$X,Y$の幾重かのリー bracket に有理数係数が掛かったものとなっています。

$G$が冪零とすると、ある次数から後ろの項は消えてしまうことになります。なので、公式の右辺は多項式で書けるような写像$\mathfrak g \times \mathfrak g \to \mathfrak g$を定めることになります。これによって$\mathfrak g$は、リー群の構造を得ます(積は、公式によって与えられる変な積です)。また、指数関数$\mathfrak g\to G$は左辺を変な積によりリー群とみなすと、群準同型になります(これは実はトートロジーです)。もしも$G$がさらに単連結と仮定すると、指数関数は同型写像になります(ここは非自明で、いわゆるLieの第3定理)。

 

結局、単連結な冪零リー群は、多様体としては$\mathbb R^n$に同型で、標準的な線形構造まで入っています。この線形構造に関して、積構造は多項式で書けます。その次数は冪零のステップ数で決まります。単連結な冪零リー群を考えることと、冪零リー環を考えることは等価です(圏同値)。Wikipediaのこの記事も参考になります。

 

部分リー群と部分リー環の対応

リー群の閉部分郡は、すべて、それ自身リー群であることが知られています(ここはリー群の基礎理論に関わる部分なので証明は大変です)。$H\subset G$を閉部分リー群とすると、そのリー環をとることで、部分リー環$\mathfrak h\subset \mathfrak g$を得ます。

逆に、リー環$\mathfrak g$の部分代数$\mathfrak h$が与えられると、指数関数の像として、連結な部分群$H\subset G$が得られます。一般には、これは$G$の閉部分群ではありません。トーラス$(\mathbb R/\mathbb Z )^2$の中に無理数の傾きで入った直線などが例です(もちろん$H$上局所的には閉埋め込みになっていますが)。

ただし、今は単連結な冪零リー群を考えています。この場合は指数・対数によって$G$の代わりに$\mathfrak g$に群構造を入れていると考えることにすると、$\mathfrak h$に対応する部分リー群は$\mathfrak h$そのものです。よって閉部分群です。というわけで、私たちの興味ある状況では連結閉部分リー群と部分リー環が完全に対応します。そして$H$が正規部分群であるという条件と、$\mathfrak h$がイデアルである条件が対応します。

リー群の意味での交換子群と、リー環の意味でとった交換子イデアルもきっちり対応します。

 

「連結」を落とすともちろん一対一対応ではなくなります。$\mathbb R ^2$の中の$\mathbb R \times \mathbb Z$のような例がいくらでもありますので。

 

Hallという人の本Wikipediaで挙げられているので、便利な本なのかもしれません。Serreの本はSpringerのLecture Notes in Mathematicsに入っていて、大学からダウンロードできる人が多いかもしれません。