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練乳状の数学 (condensed mathematics)

Condensed mathematics というものが一般化しつつあるそうです。

Condensed milk は「練乳」という意味なので、condensed math はおそらく「練乳状の数学」ということなのでしょう。

 

1次資料はこちら

Peter Scholze氏の講義ノート

https://www.math.uni-bonn.de/people/scholze/Condensed.pdf

Peter Scholze氏と Dustin Clausen 氏による集中講義を収めた YouTube プレイリスト

https://youtube.com/playlist?list=PLAMniZX5MiiLXPrD4mpZ-O9oiwhev-5Uq

Déglise氏による補足も助けになりそう

http://deglise.perso.math.cnrs.fr/docs/2020/condensed.pdf

 

一言でいうと、練乳状の数学 (condensed mathematics) は、位相環や位相群が絡むときに、今まで枠組みがうまく作れていなかった領域を、救済するための枠組みのようです。

しかも普通のZFC集合論の中で展開できるし、無限圏も最初のうちは使いません。(*1

グロタンディーク位相や層を知っていれば定義は把握できます。

 

練乳状の数学を使って達成できることの一つに、連続コホモロジーの基礎づけがあります。

位相群Gと位相G加群Mに対して、連続コホモロジー $H^i_{cont}(G,M)$ というものが昔から使われてきました。これは連続コチェイン複体という具体的な複体を用いて定義されていて、何らかのアーベル圏から出てくる導来関手としては書けていませんでした。

この連続コホモロジーに、背景となるアーベル圏が与えられます。

 

アーベル圏の記述も実に自然です。そのために少し用語を説明します。

練乳状の集合 (condensed set) とは、位相空間からなるある具体的な圏(*2)上の、集合値の層のことです。

練乳集合の圏の中で群対象や環対象を考えることで、練乳群 (condensed group) や練乳環 (condensed ring) の概念を得ます。

Yoneda的な議論により、各位相空間に対して、付随する練乳集合が決まります。

位相環や位相群が与えられると、付随して練乳環や練乳群が考えられます。

連続コホモロジーは、Gに付随する練乳群が作用するような練乳アーベル群のなすアーベル圏で、Mに付随する対象のコホモロジーをとったものと理解できます(*3)。

連続コホモロジーは、類体論や、それを使う多くの分野で、とても日常的な対象ですから、これが導来関手としてきちんと書けたというだけで、なかなかの慶事と言ってよいでしょう。

 

導来関手としての記述が見つかっていないというのは、連続コホモロジーのよく知られた問題点だったと思います。連続コロホモロジーに触れたことのある人間は、少なくとも数千人はいたでしょうし、その中には著名な数学者も多数含まれています。そんな問題への解答が、蓋を開けてみれば、わりと単純なグロタンディーク位相と層の圏だったというのは、ちょっと不思議な感じです。

日頃は「集合から離れて圏論的に考える」、「『集合+構造』とは限らない対象も一挙に扱えるのが、アーベル圏や導来圏の素晴らしい点」などと吹聴している数学者たちですが、こと位相群に関する限りは、『集合+構造』から一歩踏み出すのに何十年もを要したというのは皮肉な事例となってしまいました(自省)。

 

*1:無限圏を使わずには展開できそうにない導来幾何などとは違い、練乳数学の基礎づけは多分、無限圏とは独立のものです。が、いずれにせよ一定数の数学者は、ガチで何かを研究しだすと無限圏を使わずにはいられないので・・・。

*2:副有限集合と連続写像全体からなる圏で、被覆は有限個の対象からの、全部合わせると全射になるような写像。Small でない圏上で層を考えるのは嫌だそうなので、濃度を区切って、あとで増やす手続きが入るようです。私はこれは一旦無視したいです。

*3:だいたいこんな感じのはずですが不正確です。仮定も足りていないかもしれません。参照先をあとで足したいです https://youtu.be/OT65JC3gKPY?t=2171