[tex: ]

副有限集合と練乳集合

ここから先の記事では、連続コホモロジーが、あるサイト上のコホモロジーとして書ける、という所までを理解していきたいと思います。集合論的な、サイズの問題は一旦無視します。

 

練乳集合 (condensed sets) の概念を学ぶには、事前にグロタンディーク位相(そして景(サイト))や、それ上のの概念にはある程度親しんでいる必要があると思います。

でないと、定義もなかなか把握できないし、動機を共有したり便利さを感じたりできないでしょう。

グロタンディーク位相や層の概念については、

Artinの講義録

http://www.math.nagoya-u.ac.jp/~larsh/teaching/S2013_AG/grothendiecktopologies.pdf

Vistoliの講義録

http://homepage.sns.it/vistoli/descent.pdf

やSGA4

http://fabrice.orgogozo.perso.math.cnrs.fr/SGA4/index.html

あたりが標準でしょうか。

 

副有限集合からなる景(サイト)

副有限集合Sとは、有向集合に沿った有限集合の逆極限として書ける集合のことです:

\[ S = \varprojlim _{i\in I} S_i  . \] 

副有限集合は、離散集合の逆極限としての位相を与えると、コンパクトハウスドルフかつ完全不連結*1です。逆に、コンパクトハウスドルフかつ完全不連結な位相空間は、じつは副有限集合であることが知られています。
かかる位相空間Sから逆系$S_i$を復元するには、もちろん有限離散集合であるような商写像$S\to S_i$たちからなる逆系を考えれば良いわけですが、誘導される連続写像$S\to \varprojlim _i S_i$が同相というところに非自明な位相的議論が要ります。*2

被覆

この圏上に、次のような被覆のデータで、グロタンディーク位相を与えます。
対象Sの被覆とは、連続写像の有限集合$S_i' \to S$であって、和からの写像$\sqcup _i S_i' \to S$が全射であるようなもののことと定めます。

グロタンディーク(前)位相の公理

グロタンディーク位相の公理は、(1) 同型射は被覆、(2) 被覆の底変換は被覆、(3) 被覆の被覆は被覆、というものでした。これが成り立つのは当たり前です。

なぜ当たり前かというと、副有限集合の圏にはきちんとファイバー積があって、集合としての(あるいは副有限ということを忘れた位相空間としての)ファイバー積でこれが計算できるという事実があるからです。

ファイバー積についてのこの事実はどうチェックするでしょうか。

一つの方法は次の通りです。副有限集合と連続写像からなる図式$S\to U \leftarrow T$が与えられたとします。これを有限集合の写像たち$S_i\to U_i \leftarrow  T_i$の極限として書いておきます(添字はこのように共通に取れます)。位相空間のファイバー積は逆極限と可換なので(ファイバー積も一種の逆極限だからです)、

\[ (\varprojlim _i S_i)\times _{\varprojlim _i U_i} (\varprojlim _i T_i ) = \varprojlim _i (S_i \times _{U_i} T_i) \]

が言えて、位相空間$S\times _U T$を副有限集合として表示しています。この副有限集合は、位相空間全体という、より大きな圏の中でファイバー積の普遍性を持っているので、副有限集合の圏の中でももちろんファイバー積の普遍性を持っています。

 

練乳集合 (condensed sets)

副有限集合と連続写像全体からなるサイトをProfinとでも書きます。練乳集合 (a condensed set) とは、Profin上の集合値の層のことです:

\[  Profin ^{op} \to Sets . \]

群の圏に値を取る層は練乳群 (condensed group)、環の圏に値をとれば練乳環 (condensed ring) などと言います。

位相空間Xに対して、対応

\[ \underline X \colon \quad  (Profin \ni S ) \mapsto Map_{cont} (S,X) \]

により練乳集合 $\underline X$ が定義できます。

これがProfin上の層となるのは、今の意味の被覆$(S'_i \to S)_i$が与えられたとき、写像$\sqcup _i S_i' \twoheadrightarrow S$により$S$の位相が商位相とみなせるからです。$S$の位相が商位相とみなせるのは、$S_i'$がコンパクトなので、$\sqcup _i S_i' \to S$が閉写像であり、「全射連続閉写像により終域に誘導される商位相は、もとの位相と等しい」という位相空間論の定理によります。*3

同様の構成により、位相群からは練乳群、位相環からは練乳環が誘導されます。

位相アーベル群からは練乳アーベル群 (condensed abelian groups) が誘導され、練乳アーベル群の圏でのホモロジー代数が考えられます。これが、従来の、位相アーベル群が絡んだホモロジー代数よりも、扱いやすい理論になっているというのが練乳数学の一つの売りな訳です。

位相空間の圏を(ほぼ)含む

位相空間の圏から練乳集合の圏への関手

\[ X\mapsto \underline X: \quad Top \to CondSets \]

は忠実充満とは限らないそうですが、コンパクト生成*4ハウスドルフ空間の圏に限ると、忠実充満となるそうです。(*5

ホモトピー論をするときや、位相群や位相環のうち研究対象になるものは、だいたいコンパクト生成ハウスドルフ空間*6なので、これは嬉しいですね。

 

副有限集合以外のモデル

上に述べたように、スタンダードな定義では、練乳集合は副有限集合の圏 Profin 上の層としています。けれども、別のサイトを基にして同じ概念(おなじトポス)を得ることもできるそうです。

Clausen氏によると(*7)、コンパクトハウスドルフ空間の圏に、合わせると全射となる有限個の連続写像により被覆の概念を入れたもの CHaus や、そのうち極端不連結(extremally disconnected (綴り注意!); 完全不連結よりも強い条件*8)なもののみからなる部分圏 ($CHaus^{ex.disconn}$とでも書きましょうか)

\[  CHaus^{ex.disconn} \quad\subset\quad Profin \quad\subset\quad CHaus  \]

を使っても、その上の層の圏は同値になるそうです。

ちなみに、練乳集合の圏CondSetsの中で、quasi-compact, quasi-separatedな対象全体を考えると、CHausになっているそうです*9

離散的空間SのStone-Cechコンパクト化βSがコンパクトハウスドルフな極端不連結空間であり、CHausの射影的生成対象になっているので、βSが大切なんだとか言っていました。*10

 

*1:位相空間完全不連結とは、各点が連結成分をなすという条件です。連結な部分集合は1点集合のみと言っても同じことです。

*2:Déglise氏のノートでは有限部分集合$S_i$と書いてありますが、これは誤りでしょう。

*3:https://math.jp/wiki/%E4%BD%8D%E7%9B%B8%E7%A9%BA%E9%96%93%E8%AB%967%EF%BC%9A%E5%95%86%E4%BD%8D%E7%9B%B8#.E5.91.BD.E9.A1.8C_7.11_.28.E9.96.8B.E5.86.99.E5.83.8F.E3.83.BB.E9.96.89.E5.86.99.E5.83.8F.E3.81.A8.E5.95.86.E5.86.99.E5.83.8F.29

*4:Xを始域とする写像が連続であることを確かめるには、あらゆるコンパクト部分空間に制限したものが連続であることを確かめれば十分である、という条件。

*5:参照先 Cor. 1.28 of Deglise's notes http://deglise.perso.math.cnrs.fr/docs/2020/condensed.pdf ビデオはこちら https://youtu.be/naZMcxBU8Xs?t=1837

*6:たとえば局所コンパクトな空間はコンパクト生成。

*7:https://youtu.be/MdBo74OwBUo?t=1582 からの3分間

*8:https://en.wikipedia.org/wiki/Extremally_disconnected_space

*9:https://youtu.be/naZMcxBU8Xs?t=828 からの14分間。

*10:https://youtu.be/MdBo74OwBUo?t=817 からの10分間