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プリズム

[1905.08229] Prisms and Prismatic Cohomology

なんかプリズムの勉強をし始めたいので、大まかな概要をメモしていきたいと思います。

Nicola Mazzari - prismaticMIPD

上のセミナーのプログラムを参考に読み進めています。

 

pは固定された素数です。

定義 (Def. 1.1)

プリズムとは組(A,I)であって下の条件を満たすものである。

・Aは(つねに可換)δ環、IはSpec(A)のカルティエ因子を定めるようなイデアルである。

・環Aは(p,I)-進完備。

・δ環の構造からフロベニウスの持ち上げ \[ \phi \colon  A \longrightarrow A;\quad x \mapsto  x^p + p \delta (x) \] が定まるが、このときイデアルI+φ(I)はpを含む。

ちなみにδ環 (Def. 2.1) とは環Rと写像δ: R --> R の組であって条件

・δ(0)=δ(1)=0

・δ(xy)=x^p δ(y) + y^p δ(x) + p δ(x)δ(y)

・δ(x+y)=δ(x)+δ(y)+(x^p + y^p - (x+y)^p ) / p

を満たすもののことだそうです。

この概念はp-typical λ環の概念と一致するそうです。λ環とはbig Witt vectorsへの準同型R --> W(R)で一定の条件を満たすものを備えた環のことですよね。これの終域をp-typical Witt vectorsに書き換えるとp-typical λ環の概念になります。

(参考: Def. 1.21 of 

[1006.3125] The big de Rham-Witt complex

)

 

何に使うのか?

A/I はp進完備な環です。これ上スムーズな形式スキーム X が与えられたとき、プリズム景 (prismatic site) (X/A)_Δ というものが定義でき、その構造層係数のコホモロジーが定義できます (prismatic cohomology)。これがなぜか知らないけど良いコホモロジー理論で、既に知られていた色々なp進コホモロジー理論を復元できます (A/I を固定してプリズム (A,I) を適切に取り替えると)。

定理 (Th. 1.8)

(crystalline比較) I=(p) となるようにとっておくと、適切な係数拡大によってクリスタリンコホモロジーを復元。

(Hodge-Tate比較) X がアフィン Spf R だと、ケーラー微分 Ω ^i _{R/ (A/I)} を復元。

(de Rham比較) X/ (A/I) のde Rhamコホモロジーも復元。

(Etale比較) Aが完全 (φ: A --> Aが同型) となるように取ってあれば、Xの生成ファイバーの Z/p^n Z 係数エタールコホモロジーを復元。

(Example 1.9 (2)) Bhatt-Morrow-Scholze の A_inf コホモロジーも、(A,I)=(A_inf, ker θ) ととることで復元できるそうです。(Th. 17.2)

 

 

論文§2ではδ環の基礎理論が、§3ではプリズムの基礎理論が扱われていますが、これをブログにまとめるのは後回しにします。

プリズム景がどのように定義されるか、先に見てみましょう。

 

プリズム景

プリズム景は論文§4.1で定義されています。

この定義を述べる前に、プリズムの射 (A,I) --> (B,J) とはδ環としての準同型A-->Bであって I を J の中に写すものである、という定義を述べておきます(Def. 1.1, Def. 3.2)。

さらに、このとき実はJ=IBという等式が成り立ってしまうそうです。(Prop. 1.5 = 3.5)

定義 (Def. 4.1)

XをA/I上のp進形式スキームとする。圏 (X/A)_Δ を、対象を組

・プリズムの射 (A,I) --> (B,IB)、および

・A/I上の型式スキームの射 Spf(B/IB) --> X

\[ \begin{array}{llc} (B,IB) ,\ \mathrm{Sp f} (B/IB) &\to &X \\ \uparrow && \downarrow \\ (A,IA) && \mathrm{Sp f}(A/I) \end{array} \] 

とし、射を明らかな方法で定義することで定める。

まあクリスタリン景と似ていて、Xを部分的にA上の対象に持ち上げるデータたちのなす圏ということでしょうかね。ちなみに、環にδ構造を与えることと、divided power構造を与えることの間にも関係がある (§2.5) そうです。

この圏に、平坦被覆の概念を入れて、プリズム景の定義とします。

 

平坦被覆の概念が少々ややこしいです。I進完備な環の圏における平坦性の良い概念であるっぽい I-completely flat の概念 (§1.2 Notation) を用いています。なんか難しそうなので、あとできちんと勉強することにしますが、

・もしもMが通常の意味の平坦A加群ならば、そのI進完備化 (derivedな) は I-completely flat.

・もしもMが I-completely flat ならば、係数をA/Iにした (derivedな意味で) M/IM は平坦A/I加群

だそうなので、まあA上平坦とA/I上平坦の間の、ちょうどいい平坦性の概念なんだと考えることにさせてください。 

A加群MがI完備忠実平坦とは、I完備平坦かつM/IMがA/I加群として忠実平坦であることだそうです。これで一応プリズム景の定義が終わりました。