2018-01-01から1年間の記事一覧
この記事は Karpenko の 4 ページからなるノート「A shortened construction of the Rost motive」を見ながら書いています。チンタラ書くので、Chow 群のリテラシーのある方は、Karpenko の論文を読む方が絶対に速いです。 定理の主張 定理の証明 (補題 1) …
\( \mathbf{Z}/2\) 係数の Bloch-Kato 予想が一般の係数に先行して解けたのは、2 次形式の理論を利用して作った多様体が、証明を便利に回す歯車として使えるからです。 ただし、Voevodsky 論文じたいでは、2 次形式の理論は、表立って論じられません。すべて…
体 \( k\) の有限個の可逆元 \( a_1,\dots ,a_n\in k^* \) に対して、Pfister form を次のテンソル積で定義します。 \[\langle\langle a_1,\dots ,a_n\rangle\rangle := \langle 1,-a_1 \rangle \otimes \dots \otimes \langle 1,-a_n \rangle .\] これは \(…
前の記事までで、論文「Reduced power operations in motivic cohomology」の本質部分はさらったと思われるので、次の記事からは、Milnor 予想 (Bloch-加藤予想の \( \mathbf{Z}/2\) 係数の場合) を扱った論文「Motivic cohomology with \( \mathbf{Z}/2\)-c…
これは、前の記事からの続きです。 ふたつの定理の主張を繰り返しておきます。 多次元 corner 定理 n を自然数とし、\( A\subset \mathbb{Z}^n \) を corner-free な部分集合とする。このとき \[ \# (A\cap [ -N,N ]^n) = o(N^n) \quad \text{ as } N\to \in…
この記事は、せきゅーんさんの Green-Tao 定理に関するブログに触発されて書いたものです。 Hypergraph removal lemma から多次元 Szemerédi 定理の導出は、有限加法群版を経由する方法が日本ではポピュラーです。 が、Solymosi の方法をまねて、多次元版 Sz…
ここまでの節で、おこなったことを振り返ります。 まず、体 \( k\) 上の motivic Steenrod 代数 \( A^{*,*}\) を定義し、admissible 単項式 \( Sq^I\) のなす集合が \( A^{*,*} \) の \( H^{*,*}\) 上の線型基底となっていることを確認しました。 その次に、…
この記事では \( A_{*,*} \) の余積をかんたんに説明します。 非可換な場合のペアリングの定義 モチビック双対 Steenrod 代数の余積 まずは、最も簡単な、可換環の場合を先に少し復習します。\( k\) を可換な基礎環とし、\( A^* \) を \( k\) 上の次数付き環…
この節では、古典論と同様に、motivic Steenrod algebra \( A^{*,*}\) の双対 \( A_{*,*}\) を定義し、古典論と並行な性質を証明しています。今日も係数は \( \mathbf{Z}/2\) とします。 古典論では、Steenrod algebra \( A^* \) の双対 \( A_* \) は、p 次…
基礎体 \( k\) 上のモチーフの世界での Steenrod 代数を定義し、Hopf 代数構造が入っていることを確認する節です。本ブログでは \(\mathbf{Z}/2\) 係数に集中することにします。モチーフの世界では、点 pt のコホモロジー環が \( \mathbf{Z}/2 \) よりも真に…
問題設定 ここでは、任意の可換環 R と、t を先頭項に持つ冪級数 \[ τ = t + c_2t^2+c_3t^3 \cdots \in R [ [ t ] ] \] に関して、基底変換からくる同型 \( R[ [t ] ][ \frac 1 t ] dt \cong R [ [τ ] ][ \frac 1 τ ] d τ \) と留数をとる写像が可換というこ…
文献 S.R. Bullett, I.G. Macdonald On the adem relations, Topology 21(3), 1982, 329-332 \( t\) を次数 0 の不定元とし、Steenrod square を並べた次のコホモロジー作用素を考えます。 \[ P(t):= Sq^0+Sq^1t+Sq^2t^2+\cdots \colon \quad H^{*}(-)\to H^…
論文§10では、古典論で知られている Adem 関係式といわれるものの類似が成り立つことが説明されています。-1 の平方根が必ずしも基礎体に属さないために、古典論よりも若干煩雑な式が登場します。 この記事では、まず古典論のおさらいをしましょう。 \( \mat…
ここではちょっと退屈な、\( P^i,B^i \) たちの相互の関係を説明します。そんなに興味のない人は、非自明な \( Sq^{i}\) が現れる範囲の図式だけ見て進んでいただければいいと思います。 写像の存在範囲 Bockstein との関係式 その他 写像の存在範囲 一般に…
この節では、§5 の総冪作用素 \( P_l \) と、§6 の \( BS_l \) のコホモロジー群の計算を利用して、個冪作用素(係数は \( \mathbf{Z}/l \) )\[ \begin{array}{rl} P^i\colon & \tilde{H}^{p,q}(-)\to \tilde{H}^{p+2i(l -1)\phantom{+},\ q+i(l -1) }(-), …
これも 3 ページからなる小さな節で、定理 [Reduced power, Thm.8.4]: 「任意の次数 \( d\) とコホモロジー類 \( u\in H^{2d,d}(X,\mathbf{Z}/l )\) に対して、\(\beta P_l (u)=0. \) 」 を証明しています。\( P_l \) は既に登場した総冪作用素で、\( \beta…
この節は対称性定理: 「合成 \[ \begin{array}{rl} H^{2i,i}(X,\mathbf{Z}/l)&\xrightarrow{P_l}\phantom{l^2} H^{2il,il}(X\times BS_l ,\mathbf{Z}/l) \\ &\xrightarrow{P_l} H^{2il^2,il^2}(X\times BS_l\times BS_l,\mathbf{Z}/l) \end{array} \] はふ…
\( H^{*,*}(B\mu _l,\mathbf{Z}/l )\) の 加群としての構造を書き下しました(階数 2 の自由加群で、1 と u を基底とする)。環構造を知るには、あとは \[ u^2\in H^{2,2}(B\mu _l,\mathbf{Z}/l)\] が何かを明らかにすればよいです。\( l \) が奇素数ならば…
§6 ではモチビック・コホモロジー \( H^{p,q}(B\mu _l ,\mathbf{Z}/l ) \) と \( H^{p,q}(BS_l ,\mathbf{Z}/l) \) の計算をしています。のちの応用で重要なのは \( BS_l \) の方ですが、証明には \( B\mu _l \) への帰着を多く使います。(1 の原始 \( l\) …
V. Voevodskyの論文「Reduced power operations in motivic cohomology」の第5節のまとめ。
いつも通り、標数 \(\neq 2\) とします。 (V,q) を 2 次形式付きのベクトル空間とします。q は非退化と仮定しなくてもよいそうです。q に対応する対象双線型形式を B: V x V --> k とします。 まずは抽象的に、次のような状況を考えます。 A は (非可換な) k…
いつもどおり、F を標数 \(\neq 2 \) の体とします。n 個の可逆元 \( a_1,\dots ,a_n\in F^* \) に対して、付随する Pfister form をつぎの 2 次形式つき \( 2^n\) 次元空間とします。\[ \langle\langle a_1,\dots ,a_n \rangle\rangle := \langle 1, -a_1 \…
定理 2 次形式 \(q,q_1,q_2\) に関して、\( q\oplus q_1\cong q\oplus q_2\) ならば \( q_1\cong q_2 .\) 初めに与えられている \( \phi \colon q\oplus q_1\cong q\oplus q_2 \) は部分空間 \(q\) や \(q_i\) を保っているとも何とも仮定していないのに、結…
「昨日の」記事では 2 次形式 / 対称双線型形式の具わった空間の概念を導入し、その同等性を説明しました。そのあと、2 次形式が非退化であるとはどういうことかを定義しました。なので、2次形式つきベクトル空間 (V,q) と対称双線型形式つきベクトル空間 (V…
この記事のシリーズには、Milnor 予想の勉強のために必要な 2 次形式の知識をまとめています。いつもどおり、「投稿日時」は実際に書いている日時とは異なります。 体はなるべく \(F\) で表し、標数は 2 でないとします。 ・目次 定義と用語 直和とテンソル …