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Steenrod 篇:§5. 総冪作用素

これに始まる数記事は、論文「Reduced power operations in motivic cohomology」について書いていきます。これは代数トポロジーの古典論で、Serre, Cartan, Milnor に始まる研究でよく調べられている対象である Steenrod 代数の、モチーフ版理論を築いている論文です。

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 Steenrod 代数の生成元となるのが、Steenrod 冪作用素ないし被約冪作用素 (reduced power operation) と呼ばれるコホモロジー作用素で、題名はそれを指しています。Milnor 予想の解決論文が載った IHES の雑誌では、当該号の冒頭にこの論文が載り、そのすぐ後に Milnor 予想の論文が載っています。その意味で、ふたつの論文は一体のものです。

 

論文の初めの方には、モチーフのホモトピー圏の復習のようなことが書いてあるので、本ブログでは本題である §5 から始めたいと思います。(モチーフのホモトピー圏のことも将来的にはまとめられると嬉しいですが。) 

 

なお、ブログの投稿日時は、実際に執筆した時とは必ずしも一致しません。

 


 

いつも通りXをスキームとします。この項では群のn元集合への作用が与えられている状況で、n乗作用素

\[ H^{2i,i}(X,R)\to H^{2ni,ni}(X,R) \]

を精密化する作用素を説明します。

 

モチベーション実際の構成 定義U について極限をとるこのあとの展開:個冪作用素

 

モチベーション

Gを有限群とし、群準同型 \( G\to S_n \) を固定します(位数nの有限集合 \( \{ 1,\dots ,n \} \) への作用を固定することと同じ)。 コホモロジー

\[ x \in H^{2i,i}(X,R) \]

(Rは係数環)のn乗

\[ x ^n\in H^{2ni,ni}(X,R) \]

にも置換を通じてGが作用しますが、偶数次の元の積は可換なので、作用によってこの元は不変です。よって、これが「XのGによる商」のコホモロジー群から来ていることを期待するのは自然です。(ここで、Xには自明なG作用を入れています。)

ホモトピー論的には、この商は、Xと、Gの分類空間BGの積である

\[ X \times BG \]

です。こうしてコホモロジー

\[  P(x)\in H^{2ni,ni}(X\times BG ,R ) \]

の存在を期待することになります。(作用素Pはデータ \( G\to S_n \) に依存するので、\( P_{G\to S_n} (x) \) と書くと、より親切でしょう。)

 

 群の分類空間BGについては、別の記事で復習しますが、ここでは構成を簡単に思い出しておきましょう。Vを、Gの忠実な作用とし、対応するアフィンスキームを再びVと書きます。\( U_n \) を、\( V^{\oplus n} \) の開集合でGが自由に作用するもののうち最大のものとするとき、BG は \( U_n/G \) のnに関する順極限として定義されるのでした。[Morel-Voevodsky p.133]、[Reduced power p.17]

 

 

実際の構成

さてGを有限群とし、群準同型 \( r\colon G\to S_n \) と、Gが自由に作用するスキームUを固定します。群準同型 \( r \) から、Gはアフィン空間\( \mathbf{A}^n \) に作用します。射影 \( \mathbf{A}^n\times U \to U \) はG同変ですので、射 \( (\mathbf{A}^n\times U)/G \to U/G \) を誘導します。これは階数nのベクトル束で、\( \xi _n \) と書きます。

\[ \xi _n \colon \begin{array}{c} (\mathbf{A}^n\times U)/G \\ \downarrow \\ U/G \end{array} \]

補助的なデータとして、ベクトル束 L と自明化 \( \phi\colon L\oplus \xi _n\cong \mathscr{O}^N_{U/G}  \) をとります。これはUがアフィンなら必ず存在します。

応用を考えている、上記のような \( U_n \) は、アフィンスキームの開集合ではありますが、それ自身アフィンではありません。が、ここではそれは気にせず進むことにしましょう。(詳しい人向け:結論としては、Jouanolou's device \( U'\to U \) で、\( \mathbf{A}^1 \) ホモトピー同値の範囲で U をアフィンスキームに取り替えることになります。)

この状況で、スムーズ \( k \) -スキームXと、コホモロジー類 \( \in H^{2i,i}(X,R) \) を代表するサイクル

\[ \begin{array}{rc} Z\subset & X\times \mathbf{A}^i \\ & \downarrow \\ & X \end{array} \]

でX上有限全射なものをとります。Zの、\( k\) -スキームとしてのn重積を \( Z^{\otimes n} \subset X^n\times \mathbf{A}^{ni} \) で記し、さらにそのUとの積

\[ \begin{array}{rc} Z^{\otimes n}\times U \subset & X^n\times \mathbf{A}^{ni}\times U \\ & \downarrow \\ & X^n\times U \end{array}  \]

をとります。これは \( X^n\times U \) 上、有限全射になっています。このサイクルは \( S_n \) の作用で不変なので、サイクルのガロア降下により、商 \( (X^n\times \mathbf{A}^{ni}\times U)/G \) 上の或るサイクル Z' の引き戻しとなっています。また、そのサイクル Z' は \( (X^n\times U)/G \) 上有限全射です(有限性・全射性もガロア降下をみたすので)。

\[ \begin{array}{rc}Z'\subset & (X^n\times \mathbf{A}^{ni}\times U) /G \\ & \downarrow \\ & (X^n\times U)/G \end{array} \tag{*}  \]

次に、図式 \( (*) \) の対角射 \( X\times (U/G) \hookrightarrow (X^n\times U)/G \) による底変換 \( Z'' \) を考えます。 このとき、図式の垂直方向の射は、ちょうど \( (\xi _n) ^{\oplus i} \) になっています:

\[ \left.  \begin{array}{rc} Z''\subset & X\times (\mathbf{A}^{ni}\times U)/G \\ & \downarrow \\ & X\times (U/G) \end{array}\quad \right\} = \left( \begin{array}{c} X\times  \xi _{n} ^{\oplus i} \\ \downarrow \\ X\times (U/G) \end{array} \right)  \]

構成はまだ続きます。この図式を、射 \( X\times L^i \to X\times (U/G) \) で底変換し、相対サイクル:

\[ \begin{array}{rc}Z'''\subset & X\times (L^i\oplus \xi _n^{\oplus i})  \\ &\downarrow \\ &X\times L^i \end{array} \] が得られます。射影 \( Z'''\to L^i \) を用いて新しい埋め込み \( Z'''\hookrightarrow X\times (L^i\oplus \xi _n^{\oplus i}\oplus L^i) \) を定義し、うしろの2つの直和因子をデータ \( \xi _n^{\oplus ni}\oplus L^{ni}\cong \mathscr{O}^{Ni}_{U/G} \) で書き換えると、図式

\[ \begin{array}{rc}Z'''\subset & X\times L^i \times \mathbf{A}^{Ni}  \\ &\downarrow \\ &X\times L^i \end{array} \] を得ます(積はすべて \( k \) 上でとっています)。構成の最後のステップから、\( X\times (L^i\setminus \{ 0_{U/G} \} ) \) 上へのサイクルの制限は \(X\times L^i \times (\mathbf{A}^{Ni}\setminus \{ 0 \} ) \) に含まれることがわかります。(対偶で、 \( X\times L^i\times \{ 0\}  \) に写る \( Z''' \) の点は必ず \( X\times 0_{U/G} \) に写ることを確認するのが考えやすいです。)とくに、前層の写像

\[ X \times Th_{U/G} (L^i ) \to \frac{R\otimes \mathbf{Z}_{tr}(\mathbf{A}^{Ni} ) \phantom{ \{ 0\} }}{ R\otimes\mathbf{Z}_{tr} (\mathbf{A}^{Ni}\setminus \{ 0 \} ) }  \]

を得ます。(定義域で本当はwedge積を出力すべきところ、mathjaxの不具合により "\( \times \)"で代用しています。) 結果としてコホモロジー

\[ H^{2Ni,Ni}(X\times Th_{U/G}(L^i) ,R ) \cong H^{2ni,ni}(X\times (U/G),R) \]

 の元を得ます(同型は、Thom同型または (motivic) homotopy purityと呼ばれるものです)。

 

定義:

この一連の構成で得られる写像を \( \tilde{P}=\tilde{P}_{L,\phi } \) と記します:

\[  \tilde{P}\colon H^{2i,i}(X,R)\to H^{2Ni,Ni}(X\times Th_{U/G}(L^i),R  ). \]

Thom同型との合成は補助データ \( L,\phi \) に依らないことが判明し、これをPと記します:

\[ P\colon H^{2i,i}(X,R)\to H^{2ni,ni}(X\times (U/G),R).  \]

補助データに依らないという事実は [Reduced power; Prop. 5.2] で示していますが、基本的にはThom類とテンソル積の関係を表す公式から従います。Pという記号についてですが、個人的には、nだけでも記号の中に含まれていれば分かりやすいのに、という感想です。

 

はじめの基本性質

U の有理点をひとつ選んで引き戻すと、次の合成を得ますが、

\[  H^{2i,i}(X,R)\xrightarrow{P} H^{2ni,ni}(X\times (U/G),R ) \to H^{2ni,ni}(X,R) \] これはn乗写像に等しくなります。この事実は上の構成でガロア降下を用いたあたりを点検することで分かります。論文が「被約冪」と題されているゆえんです。

 

また、U の取り替えについての整合性があります。\( U\to V \) を、スキームの G 同変な射とするとき、次の図式が可換です。

\[ \begin{array}{rl} H^{2i,i}(X,R)\xrightarrow{P} & H^{2ni,ni}(X\times (U/G),R) \\ {}_P \searrow & \uparrow \\ & H^{2ni,ni}(X\times (V/G),R) . \end{array} \] このことは、図式 (*) とその前の図式のあたりを点検すると見て取れると思います。

 

 

U について極限をとる

[Morel-Voevodsky, p.133] の手続きで群 G の分類空間をとります。すなわち、G の忠実な線型表現 \( V\) をとり、その n 個直和 \( V^n \) が定めるアフィン空間を考えます。開集合 \( U_n\subset V^n \) を、G が自由に作用する最大の開集合とし、埋め込み \( U_n\hookrightarrow U_{n+1} \) を直和成分の埋め込み \( V^n\hookrightarrow V^n\oplus V=V^{n+1}\) から誘導されるものとします。作用が自由であることから、商 \( U_n/G \) がスキームとして自然に存在し、順極限 \( \varinjlim _{(n\to \infty )} U_n/G \) が考えられます。これを G の分類空間 BG と呼び、ホモトピー圏の対象としては表現 V の取り方に依らないのでした。

 

 P の基本的な整合性から、写像

\[ P\colon \quad H^{2i,i}(X,R )\to\varprojlim _{(n\to \infty )}H^{2ni,ni}(X\times (U_n/G),R) = H^{2ni,ni}(X\times BG,R) \] が誘導されます。これが冒頭のモチベーションで予告した写像です。 \( l\) が素数で \( G=S_l \) のとき、これを

\[ P_l\colon \quad H^{2i,i}(X,R)\to H^{2il,il}(X\times BS_l ,R)  \] と書くことになっているようです。

 

このあとの展開:個冪作用素

以上のストーリーはのちのち \( G=S_\ell , R=\mathbf{Z}/\ell \mathbf{Z} \) に対して適用されることになります(\( \ell \) は基礎体の標数と異なる素数)。

 §6では分類空間 \( BS_\ell \) の \( \mathbf{Z}/\ell \mathbf{Z}\) 係数コホモロジーが計算され、底空間のコホモロジー環上自由加群になることを示しています。これによりコホモロジー類 \( x\in H^{2d,d}(X,R) \) の像

\[ P(x)\in H^{2\ell d,\ell d}(X\times BS_\ell ,\mathbf{Z}/\ell  )\] (次数を表す変数を i から d に変えました)から直和成分への射影として \( H^{*,*}(X,\mathbf{Z}/\ell ) \) の元をいくつか得ますが、これを個冪作用素と称して写像

\[ \begin{array}{l} P^i\colon H^{2d,d}(X,\mathbf{Z}/\ell )\to H^{2d+2i(\ell -1), d+i(\ell -1)}(X,\mathbf{Z}/\ell ) \\ B^i\colon H^{2d,d}(X,\mathbf{Z}/\ell )\to H^{2d+2i(\ell -1)\mathbf{+1}, d+i(\ell -1)}(X,\mathbf{Z}/\ell ) \end{array}  \] で書きます(添字における太字は単に強調のため)。

 

今日はとりあえずここまで。 

 

 

無限圏概観:$\mathbb E_1$-環上の加群の有限性の概念

l.c.i. 性

Higher Algebra §7.2.4では、加群の2つのレベルの有限性---perfect性と、almost perfect性---が導入されています。

 

代数に関しては、有限表示、局所有限表示、概(almost)有限表示という3つの概念が導入されています。概有限表示は定義が若干複雑ですが、もっとも使い勝手が良いようです。

 

加群の有限性

定義 (Higher Algebra 7.2.4.1) $R $を$\mathbb E _1$-環とする。圏$LMod_R^{perf}$を、$R$を含みretractに関して閉じている、最小の$LMod_R$の安定部分圏とする。

$LMod_R^{perf}$に属する加群を、perfectな加群と言う。

Perfectな加群が$LMod_R$のコンパクト対象であることは、$R$がコンパクトであるという事実から従います。じつは、$LMod_R^{perf}$は、$LMod_R$のコンパクト対象のなす部分圏と一致することが判明します (Higher Algebra 7.2.4.2)。さらに、ある意味でdualizableであることとも同値です (7.2.4.4)。

 

コンパクト対象としての特徴づけから、perfectな加群の概念は、$R $がたまたま通常の環であった場合には、perfectな複体の概念と一致することがわかります。

 

 

代数の有限性

 

下の定義の文中で、$\mathrm{Free}\colon \mathrm{LMod}_R \to \mathrm{Alg}_R ^{(k)}$は忘却関手の左随伴を表すとします。

定義 (Higher Algebra 7.2.4.26). $1\le k \le \infty $とし、$R $をconnectiveな$\mathbb E_{k+1}$-環とする。$A$を$R$上のconnectiveな$\mathbb E_{k+1}$-代数とする。$A$の有限性の性質を以下のように定義する:

・$A$が有限生成かつ自由であるとは、ある有限生成自由左$R$-加群$M$があって、$\mathbb E_{k}$-代数として$A\simeq \mathrm{Free}(M)$であること。このような代数のなす充満部分圏を$\mathrm{Alg}_R^{(k),free}$と記す。

・$A$が有限表示であるとは、$\mathrm{Alg}_R^{(k)}$の中で$\mathrm{Alg}_R^{(k),free}$を含み有限余極限に関して閉じている圏に$A$が属していること。

・$A$が局所有限表示であるとは、$A$が$\mathrm{Alg}_R^{(k)}$のコンパクト対象であること。

・$A$が概有限表示であるとは、$A$が$\mathrm{Alg}_R^{(k)}$の概コンパクト対象であること。

 

この中で、概コンパクト対象という言葉はHigher Algebra 7.2.4.8で定義されており、書き下すと、すべての$n\ge 0$に対して$τ_{\le n}A$が$τ_{\le n}\mathrm{Alg}_R^{(k)}$の中のコンパクト対象である、ということになります。

 

 

 

定理 (Higher Algebra 7.4.3.18) $A $をconnectiveな$\mathbb E_\infty $-環、$B $をconnectiveな$\mathbb E_\infty $-代数とするとき、

(1) もしも$B $が$A $上で局所有限表示ならば、$L_{B|A}$は$B $-加群としてperfectである。

(2) もしも$B $が$A $上で概有限表示ならば、$L_{B|A}$は$B $-加群としてalmost perfectである。

また、それぞれ、$\pi _0 B$が$\pi _0 A$-代数として有限表示の場合には、逆も成り立つ。

 

 

一方、準同型の l.c.i. 性とは

$(R,\mathfrak m)\to (S,\mathfrak n)$をNoether局所環の局所準同型とします。有限表示などは特に仮定しません。これのCohen分解とは、Noether局所環の図式 \[ \begin{array}{ccc} R &\to & S \\ \downarrow && \downarrow \\ R' &\to &\widehat S \end{array} \] で$R'$は完備、$R\to R'$は平坦、ファイバー$R'/\mathfrak m R'$は正則で$R'\to \widehat S $は全射であるようなものを言います。

Cohen分解は常に存在することが知られています。$R\to S$が本質的に有限表示ならば、$R$上のアフィン空間を用いて簡単に示せます。写像の有限性が仮定されていない一般の場合には、完備局所環のCohen表示を使って示します。) 特に、図式の$R'$は平坦$\widehat R$-代数として取ることもできます。その場合、図式は \[ \begin{array}{ccl} R  &\to & S \\ \downarrow && \downarrow \\ \widehat R &\to &\widehat S \\ \downarrow  & \nearrow & \\ R' && \text{縦向きの写 像は平坦} \end{array} \]  の形にも書けます。こちらの方がイメージしやすいかもしれません。

 局所準同型$R\to S$がl.c.i.であるという性質は、このCohen分解を用いて定義されます。

定義 Noether局所環の局所射$R\to S$がl.c.i.であるとは、Cohen分解において、$R'\twoheadrightarrow\widehat S$の核が正則列で生成されることである。

 この定義がCohen分解に依らないことの証明は非自明です。下で、l.c.i.性の余接複体による特徴付け(Avramovの定理)を紹介しますが、この特徴づけのための議論の一部が必要になります。これが示されるまでは、l.c.i.性は当座はCohen分解に依った概念だと捉えていただいても構いません。

 

環準同型$R\to  S $の(係数付き)余接ホモロジー (cotangent [= André-Quillen] homology) を \[  D_n (S|R, -) \quad n\ge 0 \] で書きましょう。

$R\to S $がEGAの意味で正則(平坦かつファイバーが幾何的に正則)であることと、係数付き第1余接ホモロジーの消滅が同値であることが知られています:\[ R\to S \text{ 正則} \Longleftrightarrow D_n (S|R, - )=0  \text{ for }  n\ge 1.  \quad \text{(André, Quillen)} \] つまり$D_{\ge 1} (S|R, S)$が消滅し、かつ$D_0 (S|R, S) = \Omega ^1 _{S|R}$が平坦$S $-加群ということです。

また、$R\twoheadrightarrow S $が全射で核が正則列で生成されている場合は、Koszul複体の理論により、余接複体は余法束(正則列の仮定により、平坦$S $-加群です)が次数1に置かれたものになります。

このことと、余接複体の推移性から、

準同型$R\to S$がl.c.i.ならば、消滅 $D_n( S|R , -) =0 $ for $n\ge 2$ が成り立つ

ということがわかります。($S$と$\widehat S $の違いを埋めるステップは、下で説明しています。)ここで使った推移性とは、$R\to R'\to \widehat S $の状況で完全三角形$L_{R'|R}\otimes ^L _{R'}\widehat S \to L_{\widehat S|R}\to L_{\widehat S|R'}\to $があるという事実のことを言います。

 

l.c.i.性の余接複体による特徴づけ

これの逆がなりたつというのはわりと簡単だとAvramovは言っています:

定理 Noether局所環の局所準同型$R\to S $において、$S $-加群の圏上の関手の消滅 \[ D_2 (S|R , -) =0  \] が成り立つならば、$R\to S $は(あらかじめ固定したCohen分解について)l.c.i.である。

とくに、l.c.i.性がCohen分解に依らないことも結論されます。

定理の証明

補題 Noether局所環$(R,\mathfrak m)$とイデアル$\mathfrak a$に対して、次は同値である:

・ $\mathfrak a$は正則列で生成される。

・$D_{2}(R/\mathfrak a | R , R/\mathfrak m)=0$.

上から下へは、余接複体$L(R/\mathfrak a |R )$が$\mathfrak a / \mathfrak a ^2 [1] $に擬同型になる(しかも$\mathfrak a / \mathfrak a ^2$は平坦$R/\mathfrak a$-加群である)ことからわかります。 

逆を示すことは、余接複体$L(R/\mathfrak a|R)$にテンソル$\otimes ^L_{R/\mathfrak a} R/\mathfrak m $を施したあとの情報から、余接複体のTor-振幅の情報を引き出すことにあたります。

$\otimes ^L$に関するスペクトル系列を書くと、$E^2$項が$Tor _i ^{R/\mathfrak a}(D_j (R/\mathfrak a |R ), R/\mathfrak m) $になっておいます。($j=0$部分は0であることに注意します。)

収束先は$D_{i+j} (R/\mathfrak a |R , R/\mathfrak m) $になっています。仮定から、収束先の$i+j=2$の部分は消滅しています。このことから$E^2_{1,1}=0$つまり$Tor _1^{R/\mathfrak a} (D_1, R/\mathfrak m)=0$がただちに従います。平坦性の局所判定法により、$D_1=\mathfrak a /\mathfrak a ^2$が平坦$R/\mathfrak a$-加群であることが従います。正則列の理論により、この平坦性は、$\mathfrak a $が正則列で生成されることに同値です。(そうだっけ?)

局所環$(R,\mathfrak m)$が正則であることと、$\mathfrak m $が正則列で生成されることは同値なので、正則性と$D_2(R/\mathfrak m |R, R/\mathfrak m)=0$が同値であることもわかります。

補題 Cohen分解の図式において、写像 \[  D_n(S|R, S/\mathfrak n )\longrightarrow D_n(\widehat S | R' , \widehat S / \widehat{\mathfrak n} ) \] は$n\ge 2$に対して同型である。

方針のみ述べます。余接複体では、2つの環準同型$A\to B\to C$に対して、Zariski-Jacobiの推移性完全三角形というものが成り立ちます。これを用いて問題を帰着していきます。

余接複体の平坦底変換($S\to \widehat S$と係数$\ell := S/\mathfrak n $に適用します)により、写像$D_n(\widehat S|R,\widehat S/\widehat{\mathfrak n})\to D_n(\widehat S|R' ,\widehat S/\widehat{\mathfrak n})$が$n\ge 2$に対して同型であることの証明に帰着します。\[ \begin{array}{ccccc} S &\xrightarrow{\text{平坦}} &\widehat S &\twoheadrightarrow &\ell \\ \uparrow &&\uparrow && \uparrow = \\ R &\xrightarrow{\text{平坦}} & R' &\twoheadrightarrow & \ell \\ \downarrow &&\downarrow &&\downarrow = \\ k &\to &R'/\mathfrak m R' & \to & \ell   \end{array} \] 

 よって、$R'|R $の部分がある程度消えていればよく、平坦底変換により、$R'/\mathfrak mR' | k $の部分がある程度消えていれば良いです(正確には$n\ge 2$で消えていればよい)。が、$R'\mathfrak m R'$は正則であるとしているので、この消滅は易しいです。(たとえば、準同型の列$k\to R'/\mathfrak m R' \twoheadrightarrow \ell $に$\ell $係数の推移性完全列を適用し、$R' / \mathfrak m R' \to \ell $部分が前述の補題により消えることを使うと良いです。)

以上の事実を組み合わせると、上述の定理が得られています。

 

余接複体のTor次元有限性による特徴づけ 

Avramovはさらに強く、次の定理を証明しています。

定理 Noether局所環どうしの局所準同型$R\to S $において、もしも2条件

・$S $の$R$上の平坦次元が有限である。

・$S$-加群$L_{S|R}$の平坦次元が有限である。

が成り立てば、$R\to S $はl.c.i.である。(とくに、$L_{S|R}$の平坦次元はじつは$\le 1$である。)

これはQuillenの予想だったそうです。準同型写像が本質的に有限型である場合ですらAvramovの証明が初めての証明のようです。

この証明はDG代数と単体的代数が両方使われ、Cartan-Serreによる$K(\pi , n ) $のホモロジーの研究も登場するという大変興味深いものです。余裕があったら概略をまとめます。

 

定義 Noether局所環$A$がl.c.i.であるとは、$\widehat A$を正則局所環の商として書いたときに、核が正則列で生成されることである。

Cohen表示により、Noether局所環は必ず正則局所環の商として書けます。このl.c.i.性の概念が商としての書き方に依らないことも、余接複体の理論からわかります。(したがって、たとえば$A$のl.c.i.性は写像$\mathbb Z_{(p)} \to A$のl.c.i.性として定義することもできます。)

 

有限表示性と l.c.i. 性

有限表示性の余接複体による特徴づけにより、導来的でない単なる可換環の、有限表示な写像$A\to B$に対して、導来的な意味での有限表示性と、l.c.i.性はちょうど平坦次元の有限性の条件の部分だけ異なります。もしも$A$が正則ならば、平坦次元はいつでも有限になるので、両概念は一致することになります。

たとえば、$A=k$が基礎体で、$B$が$k$上有限生成な環(の局所化)ある場合は、$B$がl.c.i.環であることと、導来的な意味で$B$が$k$上有限表示であることが同値となります。