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Weil 予想の勉強 2 --- Weil 層と、重みの概念

主に本の 1.2 節前半を読んでいきます。

Weil 層

まず Weil 層という概念を思い出します。$\kappa = \mathbf F_q$ 上のスキーム $X_0$ に $\overline{\mathbf Q}_l$ 層が与えられたとき、その $X=X_0\times _{\kappa } k$ への引き戻しは $Gal (k/\kappa ) \cong \widehat{\mathbf Z}$-同変な層になります。

Weil 層とは、この降下データの一部を持った対象として以下のように定義されます。どうやら、このような中間的な対象を考えることで議論がうまく回るようです。

定義(Weil 層)

Weil 層 $\mathscr G_0$ とは、$W(k/\kappa ) (\cong \mathbf Z)$-同変な X 上の $\overline{\mathbf Q}_l$ 層 $\mathscr G$ のことを言う。

本の第1章では、単に層と言ったら Weil 層のことを指し、通常の $X_0$ 上の $\overline{\mathbf Q}_l$ 層のことは「エタール層」と呼ぶ習慣を採るそうなので、覚えておかないと混乱してしまいそうですね。

茎 $\mathscr G_{0\overline x}$ への幾何的フロベニウス $F_x\in W(k/\kappa (x) ) $ の作用が依然として意味を持ち、 L 関数 $L(X_0, \mathscr G_0,t)$ が同じ式で定義できることが確認できます。

コンパクト台付きコホモロジーの固有射による引き戻し写像と同変性のデータを使って、$F\colon H^i_c(X,F)\to H^i_c(X,F)$ も存在するので、前回の記事の Grothendieck の公式が主張として意味を持ちます。そしてこの主張が成り立つことも判明するのですが(系1.5, p.13)、これをさらうのは後日にさせてください。

重み

体の同型 $\tau \colon \overline{\mathbf Q}_l \xrightarrow{\simeq} \mathbf C $ を固定して議論するそうです。

$ \tau $ は、はてなブログではタイプセットしてくれないので、$\iota $ を使っていきましょうかね。

定義(Weil 層の重み)

$\mathscr G_0$ を Weil 層とする($X$ 上の層 $\mathscr G$ + 同変性のデータ)。$\beta $ を実数とする。

(1) $\mathscr G_0$ が $\iota $-純重み $\beta $ を持つとは、各閉点 $x$ に対して、茎への幾何的フロベニウスの作用 $F_x\colon \mathscr G_{\overline x} \to \mathscr G_{\overline x}$ の全ての固有値 $\alpha \in \overline{\mathbf Q}_l$ が次を満たすこととする:

\[  |\iota (\alpha )| ^2 = N(x)^{\beta } .  \]

(2) $\mathscr G_0$ が $\iota $-混合しているとは、Weil 部分層によるフィルトレーションがあって、各部分商が $\iota $-純であることとする。

また、すべての $\iota \colon \overline{\mathbf Q}_l \xrightarrow{\simeq } \mathbf C$ に対して上記の条件が満たされる場合($\iota $ はこの節では固定するんじゃなかったんかい)、修飾なしの(で重み $\beta $)、混合という言葉を使います。

各 $\iota $ に対して $\iota $-純だが重みが $\iota $ に依ってしまうという場合は、適当な rank 1 の Weil 層 $L_b$ ($b\in \overline{\mathbf Q}_l$) でひねると純になるそう(注2.2)ですが、理由は私には分かりません。

$\iota $-純、$\iota $-混合という概念は茎をみて定義されているので、射による引き戻しや有限射による押し出し、基礎体の拡大による底変換で、重みも含めて保たれます。(剰余体の拡大により幾何的フロベニウスが何倍かされますが、$N(x)$も同じだけ変化するので、効果が相殺されます。)

$\iota $ で係数を複素数にすると、$\iota L(X_0,\mathscr G_0,t)$ の複素平面での収束を問題にすることができます。

補題

Weil 層 $\mathscr G_0$ と実数 $\beta $ が、以下の性質を持つとする:すべての閉点 $x$ と $F_x$ の固有値 $\alpha $ が不等式

\[ |\iota (\alpha )|  \le N(x)^{\beta } = q^{[\kappa (x):\kappa ] \beta  } \]

を満たす。このとき $\iota L $ は $|t|< q^{-\frac{\beta }{2} -dim (X_0) }$ の範囲で絶対収束する。

(証明)

線形代数に弱くて申し訳ありませんが、そもそも、$F_x\curvearrowright \mathscr G_{\overline x} $ を上三角化して固有値 $\alpha _1,\dots ,\alpha _r$ が対角成分に並ぶようにしたとき、$det (1-t^{d(x)} F_x)$ という多項式は、積

\[  (1-\alpha _1 t^{d(x)}) \cdot \dots \cdot (1-\alpha _r t^{d(x)}) \]

と書けるという、当たり前の事実を指摘しておきます。(1 と $t$ は、$\overline{\mathbf Q}_l [t] $ に属するスカラーであり、初めから対角化されているので。)

積の絶対収束の定義により、和

\[ \sum _x  \sum _{i=1}^{dim (\mathscr G_{\overline x} ) } | \iota (\alpha _i) | t^{d(x)} \] 

の収束を考えることになります。仮定により固有値のサイズが抑えられて(更に、$\mathscr G$ の茎の次元の最大値を $r_{\mathscr G_0}$ とすると)、

\[ \sum _x  r_{\mathscr G_0}\cdot  (q^{\beta /2}t)^{d(x)} \] 

の収束を考えれば十分です。そこで、次数 $n$ を固定したときに、$d(x)=n$ を満たす $x$ の個数を上から評価したいです。ガバッと $|X_0(\mathbf F_{q^n})|$ を評価することにします。$X_0$ は有限型のスキームなので、台集合は $dim (X_0)$ 以下の次元のアフィンスキームの有限個の直和として書けます。個々のアフィンスキームからアフィン空間への有限射が存在する(Noetherの正規化補題)ので、結局 $X_0$ に依存する定数 $C_{X_0}>1$ が存在して

\[  |X_0 (\mathbf F_{q^n} )  | \le C_{X_0}  |\mathbf A^{dim (X_0)} (\mathbf F_{q^n}) | = C_{X_0} q^{n \cdot dim (X_0)}   \]

と結論されます。 したがって先程の級数は、上から

\[ r _{\mathscr G_0}C_{X_0} \sum _{n\ge 1}   \left( q^{\frac{\beta}{2} + dim (X_0) }  t \right)^n  \] 

で抑えられます。これは $|t| < q^{-\frac{\beta}{2}-dim (X_0)  }$ ならば絶対収束します。◼️

 

これを使って、重みの半連続性を示していくようなのですが、今日は時間になってしまったので、続きは記事を改めることにします。