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Harari の formal lemma

Colliot-Thelene と Skorobogatov のBrauer群の本から引用しています。

$X$を数体$k$上の正則な有限型スキームとし、整数環上の有限型なモデル$\mathcal X$を取っておきます。$\alpha \in Br (k(X) )$と、ある素点$v$に関して点$x\in \mathcal X(O_v)$を考えます。もしも$\alpha $が、$x$の$\mathcal X$への像を含むような開集合に延長できる場合は、制限$\alpha (x)$は零になります。($Br (O_v)=0$だからです。)短く言うと「$\alpha $が$x\in X(k_v)$の周りまで延長できるならば、$\alpha (x)=0$」ということです。

次の主張は、これの部分的な逆が成り立つという趣旨のものです。「$\alpha $が延長できないなら、$\alpha (x)\neq 0$となる$x\in X(k_v)$が(たくさん)存在する」という感じです。

定理(Harari; 本の定理12.6.1)

$X$を数体$k$上のスムーズ既約多様体とする。$\mathcal X\to Spec(O_K)$を有限型のモデルとする。$U\subset X$を空でない開集合とし、$\alpha \in Br(U) \setminus Br(X)$とする。

このとき、無限個の素点$v$に対して、点$x_v\in U(k_v)\cap \mathcal X (O_v)$で$\alpha (x_v) \neq 0$を満たすものが存在する。

 まず$X$が曲線の場合をやって、そこに帰着していきます。帰着はBertini風の議論でなされます。$\alpha $が$X$全体に伸びないという性質を「超平面切断」に遺伝させるために、Hilbertの既約性定理を利用しますが。

問題の形式的な側面を予め指摘しておきます。Brauer群のpurityにより、$X\setminus U$は余次元1閉集合としてよいです。$\alpha $が$X$に延びないという条件は、剰余$\partial _P (\alpha )\in H^1(P,\mathbf Q/\mathbf Z)$がある生成点$P\in X\setminus U$に対して非零であると表されます。この条件は$X$を$P$のNis近傍$X'$で置き換えても保存されます。$X'$のモデルとして、$\mathcal X$の整閉包$\mathcal X'$がとれます。主張を示すには、すべてを$\mathcal X'$に底変換してから問題を考えれば十分です。

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曲線の場合

$X=C$を曲線とし、$U=X\setminus \{ P\} $を閉点を1つ除いたものとします。$\alpha $は$Br (X)$に属さないとしてあるので、その$P$での剰余$\partial _P(\alpha ) \in H^1(P,\mathbf Q/\mathbf Z)$は非零です。その位数を$n$とします。

問題は$P$の周りでNis局所的なので、$C=Spec (A)$とし$P$はある関数$f\in A$の零点集合として良いです。$A^h$を$A$の$P$でのヘンゼル化とすると、エタールコホモロジーの基本性質として$H^1(A^h,\mathbf Z/n)\to H^1(P,\mathbf Z/n)$は同型なので、$P\in C$のあるNis近傍$Q\in D$と、$\partial _P(\alpha )$の持ち上げ$\xi \in H^1(D,\mathbf Z/n)$があります。・・・

 

一般次元の場合

・・・

 

上の結果を、若干の組み合わせ論的議論と合わせることで、パワーアップさせます。

定理(Harari; 本の定理12.6.3)

$X$を数体$k$上の幾何的に整なスムーズスキームとする。$U\subset X$を空でない開集合とし、$B\subset Br(U)$を有限部分群とする。アデール点$(P_v)_v \in U(\mathbf A_k)^{B\cap Br(X)}$を固定する。

このとき、素点のいかなる有限集合Sに対しても、アデール点$(M_v)_v \in U(\mathbf A_k)$であって、\[ \text{∀}v\in S\text{に対して}M_v=P_v \] かつ \[ \text{∀}\beta\in B \text{に対して}\sum _{v}\mathrm{inv} _v\beta (M_v)=0\] を満たすものが存在する(つまり$(M_v)_v\in U(\mathbf A_k)^B$)。

 定理がだいたい何を言っているかというと、与えられた状況で、$\beta \in B\cap Br(X)$に対しては$\sum _v \mathrm{inv}_v\beta (P_v)=0$が満たされているが、$\beta \in B\setminus Br(X)$に対しては必ずしもそうではないので、$(P_v)_v$をうまく修正して同様の条件が成り立つようにしたいというわけです。実際の$(M_v)_v$の取り方は、有限個の$v$を除いては$M_v:=P_v$と取ることになります。

このような$\beta $はとくに$Br(U)\setminus Br(X)$の元なので、冒頭の定理が役立ちうるのが見て取れると思います。$\beta $たちは有限個のねじれ元なので、$\beta (M_v)\in \mathbf Q/\mathbf Z$のありうる値は($v$や$M_v$がいろいろ動いても)有限通りしかありません。そこで鳩の巣原理がどこかで出てきそうな予感もすると思います。

もう少し正確に書くと、$\beta \in B\setminus Br(X)$に対しては現状で \[ \sum _v \mathrm{inv}_v\beta (P_v) \neq 0  \] となっている可能性があるわけです。左辺で有限個の$v$を除いては$\mathrm{inv}_v\beta (P_v)=0$であることに気をつけましょう。これを満たさない$v$は全ての$\beta $を合わせても有限個なので、こうした$v$は以下では除外しているとします。

$\beta $を1個固定したときに、達成したいのは以下のことです。有限個の素点$w$(前段落で除外したものの外から取ってきます)とアデール点$M_w$を見つけて、$ \sum _w inv _w \beta (M_w) =-\sum _v inv_v \beta (P_v) $を満たすようにする。前の定理により$inv_w \beta (M_w)\neq 0$となるような$w$と$M_w$はたくさんあるので、これは可能そうに思えると思います。

キチッと証明するには「$M_w\in \mathcal X (O_w)$での値を見る」ことで得られる$Hom (B/B\cap Br(X),\mathbf Q/\mathbf Z )$の元たちを考えます。冒頭の定理を、$B/B\cap Br(X)$のあらゆる非自明元に対して考えることにより、「$M_w$での値を見る」写像たちが、このHom群を生成することが分かります。(なので、固定した$\beta $に対して前段落の目標を達するためでも、$\beta $の整数倍である元を同時に考えなければならなかった、というわけです。)このことから、$\sum _w inv_w \beta (M_w)$の値を自由自在に、しかも複数の$\beta $に対して同時に、操ることが可能となります。◼️