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Weil 予想の勉強 4 --- 収束半径による特徴づけ前半

今日は、本の20-25ページにある、層の重みをL関数の収束半径で特徴づける話を勉強したいです。

いつもどおり、$X_0$ を有限体 $\kappa $ 上の有限型スキームとし、$\mathscr G_0$ を $X_0$ 上のWeil層とします。(つまり $\mathscr G_0$ は $X=X_0\otimes _\kappa k $ 上のエタール層 $\mathscr G$ とフロベニウス作用のデータの組です。)

正整数 $m\ge 1$ を選び、$\kappa \subset \kappa _m\subset k$ を唯一の次数 $m $ の中間体とします。関数

\[  f^{\mathscr G_0}_m=f^{\mathscr G_0} \colon X_0(\kappa _m )\to \mathbf C \]

を $ x \mapsto \iota Tr (F^m,\mathscr G_{0\overline x})$で定義します。点 $x$ のフロベニウスは $F_x=F^{d(x)}$ なので、値は $\iota Tr (F_x^{m/d(x)})$ と書いても同じです。

ふたつの関数 $f,g\colon X_0(\kappa _m)\to \mathbf C$ に対して、内積を次で定義します(定義域が有限集合なので、いつでも和が取れます。)

\[  (f,g)_m := \sum _{x\in X_0(\kappa _m)} f(x) \overline{g(x)} .  \] 

関数 $f$ のノルムを $\Vert f \Vert _m := (f,f)_m^{1/2}$ で定義します。関数 $f^{\mathscr G_0}$ は、次のごとく $\mathscr G_0$ のL関数を記述するのに使えるので、考える意味があると納得できるでしょう:

公式

\[  \frac{\iota L '(X_0,\mathscr G_0,t)}{\iota L (X_0,\mathscr G_0,t}= \sum _{n=1}^\infty (f^{\mathscr G_0},1)_n t^{n-1}. \]

力量の乏しい読者なので、念のためこれをキチンと確認させてください。(埋め込み $\iota $ は省いて書きます。)まずL関数の定義に従ってlog微分を書き下します

\[  \frac{d}{dt}\log L(X_0,\mathscr G_0,t) = \sum _{x\in |X_0|} \left( -\log (det (1-t^{d(x)}F_x,\mathscr G_{0\overline x}) ) \right) ' \] 

点 $x$ での固有値 $\alpha _1,\dots ,\alpha _d$ ($d(x)=d$  と書きました) を使って $\log (det (1-t^{d(x)}F_x,\mathscr G_{0\overline x}) )= \log (1-\alpha _1 t^d) + \dots + \log (1-\alpha _d t^d)$ と書けるので微分して-1倍すると $\frac{\alpha _1dt^{d-1}}{1-\alpha _1t^d}+\dots +\frac{\alpha _d dt^{d-1}}{1-\alpha _dt^d}$ となります。等比級数の和の公式 $1/(1-\alpha t^d) = 1+\alpha t^d +(\alpha t^d)^2+\dots $ を使うと, $= d(\alpha _1+\dots +\alpha _d) t^{d-1}+d (\alpha _1^2+\dots +\alpha _d^2) t^{2d-1}+\dots  $ つまり $ =d(x)Tr(F_x, \mathscr G_{0\overline x})t^{d(x)-1}+d(x)Tr(F_x^2, \mathscr G_{0\overline x})t^{2d(x)-1}+\dots $ となります。これを $x$ について足すことになります。固定した次数 $t^{n -1}$ の係数は

\[  \sum _{\substack{x\in |X_0| \\  d(x)\mid n } } d(x)Tr(F_x^{n / d(x)}, \mathscr G_{0\overline x})  \]

となります。 条件 $d(x)\mid n$ は、当該閉点が $X_0(\kappa _n)$ に現れることと同値で、一つの $x$ に対して対応する $X_0(\kappa _n)$ の元は  $d(x)$個あります。(射 $Spec (\kappa _n)\to X_0$ へのガロア作用。)従って上の和は $\sum _{x\in X_0(\kappa _n)} Tr(F_x^{n/d(x)}, \mathscr G_{0\overline x} ) = \sum _{x\in X_0(\kappa _n)} f^{\mathscr G_0}$ と読み替えられます。(埋め込み $\iota $ を省いて書いていたことを思い出しましょう。)これで公式が確認できました。◼️

確認しておいてナンですが、この公式は以後積極的に使われるわけではないようです。

 

これまでの議論で我々は既に次のことを本質的には知っています。

補題2.13

$X_0$ と $\mathscr G_0$ のみによって決まる正の数 $C>0$ があって、全ての $m\ge 1$ に対して次が成り立つ(ここで $w(\mathscr G_0)$ は点ごとにみた $\mathscr G_0$ の重みのsupを表す記号であったことを思い出しましょう):

\[  \Vert f^{\mathscr G_0}\Vert ^2_m \le C \cdot q^{m\cdot (w(\mathscr G_0)+dim (X_0) ) } .  \]

実際、まず定義を書き下すと $\Vert f^{\mathscr G_0}\Vert ^2_m:= \sum _{x\in X_0(\kappa _m)} |\iota Tr (F_x^{m/d(x)},\mathscr G_{0\overline x}) |^2 $ です。$w(\mathscr G_0)$ の定義により、点 $x$ のフロベニウス $F_x$ の固有値 $\alpha $ はいずれも $\iota $ で埋め込んだ時の大きさ $\le q^{w(\mathscr G_0)d(x)/2}$ で抑えられています。従って$F_x^{m/d(x)}$の固有値は $\le q^{mw(\mathscr G_0)/2}$ で抑えられます。トレースを求めるには、これを $rank (\mathscr G_{0\overline x})$ 個足すので$|\iota Tr(F_x^{m/d(x)})| \le rank (\mathscr G_0)q^{mw(\mathscr G_0)/2}$ となります。2乗すると  $|\iota Tr(F_x^{m/d(x)})|^2 \le rank (\mathscr G_0)^2q^{mw(\mathscr G_0)}$ となります。$x$ について和を取りますが、ネーターの正規化補題により $|X_0(\kappa _m)|\le C\cdot q^{m\dim (X_0)}$ を満たす正の数 $C>0$ が $X_0$ に応じて見つけられます。よって

\[ \sum _{x\in X_0(\kappa _m)} |\iota Tr (F_x^{m/d(x)},\mathscr G_{0\overline x}) |^2 \le rank (\mathscr G_0)^2q^{mw(\mathscr G_0)} \cdot C\cdot q^{m\dim (X_0)}  \]  

となります。$rank (\mathscr G_0)^2\cdot C$ を新たに定数 $C>0$ と書くことにすれば主張が示せています。◼️

 

定義2.14

\[ \Vert \mathscr{G_0}\Vert := \sup \left\{  \rho\in \mathbf R\cup \{-\infty \} \ \middle| \ \limsup_{m\ge 1} \Vert f^{\mathscr G_0}\Vert q^{-m\cdot (w(\mathscr G_0)+dim (X_0) )} >0  \right\} . \]

補題により、$\rho >w(\mathscr G_0)$ としたときlimsupは0になってしまうので、$\Vert \mathscr{G_0}\Vert \le w(\mathscr G_0)$ がわかります。曲線の場合に実は等号が成り立つというのが本記事の主定理です。

また、冪級数

\[  \phi ^{\mathscr G_0}(t):= \sum _{m=1}^\infty \Vert f^{\mathscr G_0}\Vert ^2_m t^{m -1} \]  

の収束半径が $q^{-\Vert \mathscr G_0\Vert -dim (X_0) }$ である、と言って $\Vert \mathscr G_0\Vert $ を特徴づけることもできます。(これは単に正項級数の初歩的な一般事実を適用しただけです。)

 

定理2.16 (p.21)

$X_0$は1次元とする。$\mathscr G_0$は$\iota $-混合と仮定する。$j_0\colon U_0\hookrightarrow X_0$を、局所次元が1であるような全ての点からなる開集合とする。(つまり$X_0$が曲線と有限個の閉点の無縁和になっているとき、曲線である部分を$U_0$と呼ぶわけです。)

このとき

(1) $\Vert \mathscr G_0 \Vert = \max (w_{gen}(j_0^*\mathscr G_0),\ w(\mathscr G_0)-1)  $;

(2) $X_0$が非特異曲線かつ$H^0_E(X,\mathscr G)=0$が全ての閉集合$E$に対して成り立つと仮定する。このとき $\Vert \mathscr G_0 \Vert = w(\mathscr G_0)$.

(1) (2) の整合性ですが、(2) の仮定のもとでは$w_{gen}(j_0^*\mathscr G_0) = w(\mathscr G_0)$でした(記事3)ので大丈夫です。

https://motivichomotopy.hatenablog.jp/entry/2022/01/03/000000

なぜなら台付きコホモロジーの消滅は、どんな開集合$i_0\colon V_0\hookrightarrow X_0$に対しても制限写像$\mathscr G_0 \hookrightarrow i_{0*}i_0^*\mathscr G_0$が単射となることと同値ですので。(従って記事3の補題と合わせると、$X_0\setminus V_0$の点によって重みが上がることがなく、$w(i_{0*}i_0^*\mathscr G_0) = w(\mathscr G_0)$.)

さらに、このとき(1)の主張は(2)の結論と一致しますので、定理全体の証明は(1)に帰着されました。

(1)の証明の勉強に入りたいですが、出かける時間になってしまったので、次の記事としたいと思います。