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Weil 予想の勉強 1 --- Frobenius まわりの記号の復習

Reinhardt Kiehl, Rainer Weissauer 著

Weil Conjectures, Perverse Sheaves and l'adic Fourier Transform

https://link.springer.com/book/10.1007/978-3-662-04576-3

という本があることを知ったので、これを勉強してみます。もっと有名な Freitag-Kiehl 本

https://link.springer.com/book/10.1007/978-3-662-02541-3

への続編として書かれたようです。

 

この記事では、とりあえず様々なフロベニウス射を表す記号をさらっておきます。

$\sigma $ シグマは、はてなブログではうまくタイプセットされませんが、代わりにどの記号を使うか決めるまでは、それを覚悟で使うことにします。

有限体 $\kappa = \mathbf F_q$ とその代数閉包 k を第1章では固定しています。

様々なフロベニウス

$\kappa $上の環のq乗フロベニウスを算術的フロベニウスと称し、$\sigma =\sigma _{k/ \kappa }$ と書いています:

\[ \sigma \colon x\mapsto x^q .\]

$Gal (k/\kappa ) $におけるその逆元を幾何的フロベニウスと称し、Fと書いています:

\[ F \colon x \mapsto x^{1/q}. \] 

$Gal (k/\kappa ) $ の中でシグマないしFが生成する部分群をWeil群と称し、$W(k/\kappa )\cong \mathbf Z$と書きます。Fと1を対応させる習慣を採っています。

 

$\kappa = \mathbf F_q$ 上の任意のスキームXに対して、構造層でのq乗写像が誘導する自己射が考えられます。これを(シグマの代わりにsと書くことにして)$s_{X/\kappa } $と書きます。

 

ちなみに本の XI ページに、ガロア群は環には左から作用し、スキームには右から作用するという convention が説明されています。

 

$\kappa $上のスキーム$X_0$の k への係数拡大として X が得られているとします。k の算術的フロベニウスによる底変換$X \times_{Spec(k)}Spec (k)$は canonical にXに同型です。このことから Cartesian 図式

\[ \begin{array}{ccc} X &\xleftarrow[\simeq]{} & X \\ \downarrow &\square &\downarrow \\ Spec (k ) &\xleftarrow[\simeq]{s_{k/\kappa }} & Spec (k)  \end{array} \]

が得られますが、ここでの X から X への射は恒等射ではない自己同型です。これの逆射(つまり図式で算術的フロベニウスの代わりに幾何的フロベニウスを用いた場合に得られる射)を、フロベニウス自己同型と呼び$F_X$と書きます:

 \[ \begin{array}{ccc} X &\xrightarrow[\simeq]{F_X} & X \\ \downarrow &\square &\downarrow \\ Spec (k ) &\xrightarrow[\simeq]{F_{k/\kappa }} & Spec (k) . \end{array} \] 

例えば、$X_0=\mathbf A^1_k$の場合は、座標$x\in k$で表される閉点を$x^{1/q}$に写すような自己同型になっています。

 

さて今度は、X の側でもq乗フロベニウスを考えて得られる可換図式

\[ \begin{array}{ccc} X &\xleftarrow{s_{X/\kappa }} & X \\ \downarrow &&\downarrow \\ Spec (k ) &\xleftarrow[\simeq]{s_{k/\kappa }} & Spec (k)  \end{array} \]

を考えます。先程の Cartesian 図式により、$X$の自己射

\[ Fr_X \colon X\to X \]

が得られます。これをXのフロベニウス自己射と称します(右端から左端への合成が$s_{X/\kappa }$):

\[ \begin{array}{ccc} X &\xleftarrow{} & X & \xleftarrow{Fr_X} & X \\ \downarrow &\square &\downarrow &\swarrow & \\ Spec (k ) &\xleftarrow[\simeq]{s_{k/\kappa }} & Spec (k)  \end{array} \]

これは k-スキームとしての射であり、$X_0$が有限型ならば$Fr_X$は有限射です。(多項式環のときこれは正しくて、有限生成な環は多項式環の商として書けるので。)例えば、$X_0=\mathbf A^1$の場合は変数 $t$ を$t^q$に送り、係数はそのままであるような k-準同型$k[t] \to k[t] $に対応するものとなっています。座標$x\in k$で表せられる点は$x^q$に写ります。

Grothendieck跡公式

$\overline{\mathbf Q}_l$層の L 関数と、それを表示する Grothendieck 跡公式というものを恥ずかしながらよく知らなかったので、主張をおさらいします。

$\mathscr G$を$X_0$上の$\overline{\mathbf Q}_l$層とします。(この概念は、proetale位相の出現により、定義が容易になりました。)

https://www.math.ru.nl/personal/bmoonen/Seminars/ProEtale.pdf

これの L 関数の定義を思い出しましょう。

L 関数

各閉点 $x\in |X_0|$ に対して次のことを考えます。$x$ の上の幾何的点 $\overline x \in X_0 (k)$ をとります。そこでの $\mathscr G$ の茎を $\mathscr G_{0\overline x}$ と書きましょう。幾何的フロベニウス $F_x\in Gal (k/\kappa (x))$ が $\mathscr G_{0\overline x}$ に線形に作用する($\kappa (x) $ 上のエタール層の圏は、連続$Gal (k/\kappa (x) )$ 作用のついたベクトル空間の圏と同値なのでした)のでこれを

\[ F_x\colon \mathscr G_{0\overline x}\to \mathscr G_{0\overline x} \]

と書きます。x を固定したとき、$\overline x$ の取り方は $d(x)=[\kappa (x):\kappa ]$ 通りありますが、$F_x$はすべて互いに同型($\overline{\mathbf Q}_l$ ベクトル空間の圏の中で)となります。そこで$F_x$という記号が正当化されるわけです。こうして次の無限積が意味を成すので、これを $L(X_0,\mathscr G_0,t)$ と書くそうです:

定義(L 関数)

\[ L(X_0,\mathscr G_0,t):= \prod _{x\in |X_0|} \frac{1}{det (1-t^{d(x)} F_x,\mathscr G_{0\overline x} ) } \in \overline{\mathbf Q}_l[ [ t ] ]  . \]

念の為ですが、det の部分は、$1-t^{d(x)}F_x$ という $\mathscr G_{0\overline x}\otimes \overline{\mathbf Q}_l [t]$ の自己線型写像を考えて、その行列式 $\in \overline{\mathbf Q}_l [t] $ をとるという意味です。

$\mathscr G_0=\overline{\mathbf Q}_l$ と定数層の場合が、おなじみのゼータ関数ですね(ピンとこなければ、更に $t=1/q^s$ を代入することを考えると、数体のゼータ関数と同様の式になります)。

これを有限積として書いてしまうのが Grothendieck跡公式です。

Grothendieckの公式

$X$ 上の層の標準的な同型 $Fr_{\mathscr G}\colon Fr_X^* \mathscr G \cong \mathscr G$ があります。この同型をみるには、スキーム $G_0$ が $X_0$ 上エタールであるとき $Fr_X$ の底変換がちょうど $Fr_G $ になるという事実から、$Fr_X^* G \cong G$ となることを思い出します。そのような G の colimit として $\mathscr G$ を書くことで$\mathscr G$ に対しても同じ結論を得ます。

このこととは無関係に、$Fr_X\colon X\to X$ は固有ですのでコンパクト台コホモロジーの引き戻し写像 $H_c^i(X,\mathscr G)\to H_c^i(X,Fr_X^*\mathscr G)$ があります。

先程の同型と組み合わせると、自己線型写像

\[ F\colon H_c^i(X,\mathscr G)\to H_c^i(X,\mathscr G) \]

を得ます。

定理(Grothendieck 跡公式)

\[ L(X_0,\mathscr G_0,t) = \prod _{i=0}^{2\dim X} \frac{1}{ det (1-tF , H^i_c(X,\mathscr G ) ) ^{(-1)^i} } . \]

点の情報から定義される対象が、コホモロジーという大域的な量で決定されるさまを記述する、美しすぎる定理と言ってよいでしょう。しかもアプリオリには t の冪級数でしかなかったものが、有理関数と判明してしまいました。