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特性類講義より:Stiefel-Whitney 類

ここでは Stiefel-Whitney 類の基本事項を述べます。詳しくは Milnor-Stasheff 本の §4, §8 を読むとよいです。

 

Stiefel-Whitney 類とは、位相空間 \(X\) 上の階数 \(n\) の実ベクトル束 \(E\to X\) に対して定まるコホモロジー類の組 \[  \begin{array}{l}
w_0(E)=1\in H^0(X,\mathbf{Z}/2), \\
w_1(E)\in H^1(X,\mathbf{Z}/2), \\
\dots , \\
w_n(E)\in H^n(X,\mathbf{Z}/2)
\end{array} \] です。\(n\) 次よりも上も、便宜のため 0 と定義します。これらの和を全 Stiefel-Whitney 類と呼ぶことがあります:\[
w_{tot} (E) := 1+w_1(E)+ \dots + w_n(E)\in \bigoplus _{i\ge 0} H^i (X,\mathbf{Z}/2).
\]

なぜ \( \mathbf{Z}/2\)-係数なのか?

ベクトル束を考えるときには \( \mathbf{Z}/2\) 係数が自然な設定であることを説明したいと思います。最も説得力のあるのは次の同型でしょう。

(\(X\) 上の実直線束のなす群) \( \cong H^1(X,\mathbf{Z}/2).\)

ただし \(X\) としては、それなりに良い空間、たとえば位相多様体を想定しています。(おそらくパラコンパクトならこの記事の内容はOKです。)この事実の確認の仕方を二つほど紹介しておきます。

事実の説明 1

いまは位相空間の世界で考えているので、記号 \( \mathcal{O}_X \) で実数値連続関数のなす層を表すことにします。記号 \( \mathcal{O}_X^*\) で \( \mathbf{R}^*\) 値の関数のなす層とします。もちろん \[ \{ \text{Line bundles on }X \} =H^1(X,\mathcal{O}_X^*) \] です。実数体の乗法群 \( \mathbf{R}^*\) が「符号」と「絶対値の log」により加法群の直積 \( \mathbf{R}^*\cong \mathbf{Z}/2 \times \mathbf{R} \) に分かれることに対応して、可逆値連続関数の層 \( \mathcal{O}^*_X\) も直積 \( \mathcal{O}_X^*\cong \mathbf{Z}/2 \times \mathcal{O}_X \) に分かれます。よって \[ H^1(X,\mathcal{O}_X^*)=H^1(X,\mathbf{Z}/2)\oplus H^1(X,\mathcal{O}_X) \] です。第 1 成分は私たちの欲しい群です。第 2 成分は、連続関数の層 \( \mathcal{O}_X\) が細層 (Wikipedia) なので、コホモロジーが消えます。(この消滅の証明が知りたい方へ:微分可能多様体の de Rham コホモロジーが特異コホモロジーと同型である或る証明にこの証明を使うので、微分可能多様体複素多様体の教科書には載っていると思います。)  

 

事実の説明 2

実射影空間の順極限を \( \mathbf{P}^\infty := \varinjlim _n \mathbf{P}^n \) とします。これから行う説明を要約すると、直線束の集合がホモトピー集合 \( [X,\mathbf{P}^\infty ] \) と一対一対応にあり、\( \mathbf{P}^\infty \) が \( \mathbf{Z}/2\) の分類空間であるということです。

\( \mathbf{P}^n\) は \( n+1\) 次元 \(\mathbf{R}\) ベクトル空間内の 1 次元部分空間の集合なので、連続写像 \( X\to \mathbf{P}^n\) を与えることと、自明ベクトル束 \( \mathcal{O}^n_X\) の階数 1 である(連続な)部分束を与えることと同じです。したがって連続写像の集合から直線束の同型類の集合への写像 \( Hom_{cont}(X,\mathbf{P}^n)\to\) \( \{ \text{Line bundles on }X\} \) があります。一般論により、互いにホモトピックな写像は同じ元に写ります。全射性は、任意の直線束が十分高い階数の自明束に埋め込めることと同値です(多分)。\(X\) が可微分多様体の場合は、Whitney の埋め込み定理により直線束の全空間がユークリッド空間に閉部分多様体として埋め込めるので、これは正しいです。パラコンパクトの場合は調べて後日書きます。単射性も、使う道具は今までに出たようなもののはずですが、後日書きます。

つぎに \( \mathbf{P}^\infty \) が \( \mathbf{Z}/2\) の分類空間であることを見ます。これには、\(n\) 次元球面 \( S^n\) の \( n-1\) 次以下のホモトピー群 \( \pi _1,\dots ,\pi _{n-1} \) がすべて自明であることを使います。このことから、順極限 \( S^\infty :=\varinjlim _n S^n \) のホモトピー群はすべて自明です。かつ、\( \mathbf{Z}/2\) が \(S^\infty \) に対蹠点によって自由に作用します。群の分類空間の一般論により、この作用による商は \( \mathbf{Z}/2\) のひとつの分類空間です。各 \( S^n\) の \( \mathbf{Z}/2\) による商は \( \mathbf{P}^n\) ですから、\( S^\infty \) の商は \( \mathbf{P}^\infty \) です。

こうして、\( [X,\mathbf{P}^\infty ]=[X,K(\mathbf{Z}/2, 1)]=H^1(X,\mathbf{Z}/2) \) と計算できます。最後の同型も分類空間に関する初歩的なものです。

これで \( H^1(X,\mathbf{Z}/2)\) が直線束の群であることが納得できました。とくに、任意の直線束は 2 回テンソルすると自明になります。このことは以下のことからも理解できます。

1 の分割を持つような空間においては、任意の実ベクトル束 \(E\) に正定値計量が入ります。このことから、 \(E\) はその双対 \( E^\vee \) に同型です。とくに直線束 \( L\) に対しては \( L\otimes L \xrightarrow{\cong }\mathcal{O}_X \) です。