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Weil 予想の勉強 3 --- 重みの半連続性

本の第1章第2節前半を読んでいます。

 

次の主張が、重みの半連続性の技術的な肝のように思われます。

補題

$X_0$ を $\kappa $ 上の非特異既約曲線とする。$j_0\colon U_0\hookrightarrow X_0$ を(全体ではない)稠密開集合とする。

$\mathscr F_0$ を $U_0$ 上のスムーズな Weil 層とする(= $U$ 上の局所定数な $\overline{\mathbf Q}_l$ 層 $\mathscr F$ + 幾何的フロベニウスの作用のデータ)。

このときもし全ての $x\in U_0$ と、$F_x\colon \mathscr F_{\overline x}\to F_{\overline x}$ の全ての固有値 $\alpha $ に対して

\[ |\iota (\alpha )|^2  \le N(x)^{\beta } \]

が成り立てば、任意の $x\in X_0$ と $F_x\colon (j_{*}\mathscr F)_{\overline x}\to (j_{*}\mathscr F)_{\overline x}$ の任意の固有値 $\alpha $ に対しても同じことが成り立つ。

(証明)

L 関数の定義と Grothendieck の跡公式により

\[ \iota L(U_0,\mathscr F_0,t)\prod _{x\in X_0\setminus U_0} \frac{1}{\iota det (1-t^{d(x)}F_x, (j_*\mathscr F)_{\overline x} ) } =  \iota L(X_0,j_{0*}\mathscr F_0,t) = \frac{\iota det (1-F t,H^1_c(X,j_*\mathscr F) ) }{\iota det ( 1-Ft,H^2_c(X,j_*\mathscr F) ) }  \] 

となります。両辺の極($t$ を変数とする複素関数としての)について知っていることを書いていきます。

まず、$\iota L (U_0,\mathscr F_0,t)$ の形の項が、$|t|<q^{-\frac{\beta}2 -1 }$ の範囲に零も極も持たないことが、前回の記事の収束性から従います。よって、左辺の極のうち$|t|<q^{-\frac{\beta}{2}-1}$の範囲のものは必ず $F_x\curvearrowright (j_*\mathscr F)_{\overline x}$ ($x\in X_0\setminus U_0$) の或る固有値を $\alpha $ として、

\[  t= \iota \alpha ^{-1} \]

の形をしています。(ただし、$\iota \alpha $ のサイズによっては、この極は $|t|<q^{-\frac\beta 2 -1}$ の範囲にありませんが。)

次に右辺の極を考えます。そのためにコホモロジー群 $H^2_c(X,j_*\mathscr F)$ を Poincare 双対定理を用いて書き換えます。$\mathscr F$ は $U$ 上の局所定数層でしたので、ある表現 $\pi _1 (U_0,\overline x)\curvearrowright V:= \mathscr F_{\overline x} $ に対応します。 この記号のもと

\[ H^2_c(X,j_*\mathscr F) = H^2_c(U,\mathscr F) = H^0(U,\mathscr F^{\vee})^{\vee } (-1) = (V_{\pi _1 (U,\overline x)} )(-1)  \]

と書き換えられます。Tate 捻り $\mathbf Q_l(-1)$ への $F$ 作用は $q$ 倍写像($\mathbf Q _l(1)$ への $q$ 乗フロベニウスの作用が $q$ 倍なので、その逆数の逆数)でしたので、右辺の極は、$V_{\pi _1 (U,\overline x)}$ への $F$ 作用の或る固有値を $\alpha $ として

\[ t= \iota \alpha ^{-1} q^{-1} \]

の形になります。$V_{\pi _1(U,\overline x)}$ は $V=\mathscr F_{\overline x}$ の商なので、固有値 $\alpha $ は $F_x = F^{d(x)}\curvearrowright V$ の固有値でもあり、仮定により $|\iota \alpha |\le (N(x)^{\beta /2} )^{1/d(x)} = q^{\beta /2}$ です。なので $|\iota \alpha^{-1}q^{-1}| \ge q^{-\frac\beta 2-1}$ を得ます。つまり右辺は $|t|< q^{-\frac\beta 2-1}$ の範囲に極を持ちません。

両辺の極に関する知識を合わせると、$x\in X_0\setminus U_0$ に関して、$F_x\curvearrowright j_*\mathscr F_{\overline x}$ の固有値 $\alpha $ はすべて $|\iota \alpha ^{-1}| \ge q^{-\frac\beta 2 -1}$、つまり

\[ |\iota \alpha | \le q^{\frac\beta 2+1} \]

を満たさなければなりません。

以上の結果は、目標の $|\iota \alpha | \le q^{\frac\beta 2}$ に微妙に届きません。が、層のテンソルを用いた以下の有名なテクニックで目標に届くことができます。

$k\ge 1$ を自然数とするとき、作用 $F_x\curvearrowright (j_*\mathscr F)^{\otimes k}$ は $\alpha ^k$ を固有値として持ちます。$\mathscr F$ の、基本群の作用としての上記の記述から、$( (j_*\mathscr F)_{\overline x})^{\otimes k} \hookrightarrow (j_*(\mathscr F^{\otimes k}) )_{\overline x}$ が分かるので、$\alpha ^k$ は後者のベクトル空間への $F_x$ 作用の固有値でもあります。

先程の結論は局所定数層 $\mathscr F^{\otimes k}$ にも適用できます。$U_0$ の各点での固有値の上界は $|\iota \alpha '|^2 \le  N(x)^{k\beta }$ の形になります、一般に有限次元ベクトル空間のテンソル $V\otimes W$ への作用素固有値は、両方の固有値の積の形 $\alpha _V\alpha _W$ のもので尽くされますので(上三角化したあと行列のテンソルを考えるなどすると分かります)。

$\mathscr F^{\otimes k}$ に結論を適用すると

\[ |\iota \alpha ^k| \le q^{-\frac{k\beta} 2 -1} \quad \text{i.e., } |\iota \alpha | \le q^{-\frac\beta 2 - \frac 1k} \]

を得ます。$k$ はいくらでも大きくとれるので、$|\iota \alpha |\le q^{\beta /2}$ を得ます。

◼️

 

すばらしい証明でしたね。

 

$X_0$ を任意の有限型 $\kappa $ スキームとしても、補題の主張は依然成り立つ。

(証明)

主張は、$X_0$ の正規化をとったあとで確かめれば十分です(正規化の写像が有限射なので)。

$X_0\setminus U_0$ の任意の閉点に対して、その点を通り $U_0$ とも交わるような部分曲線がとれます。必要ならこれを再び正規化して、補題を適用すればよいです。◼️

$\mathscr G_0$ を $X_0$ 上の局所定数な Weil 層とし、$j_0\colon U_0\hookrightarrow X_0$ を稠密開集合とする。もしも $j_0^* \mathscr G_0$ が $\iota $-純で重み $\beta $ ならば、$\mathscr G_0$ もそうである。

(証明)

単射 $\mathscr G\hookrightarrow j_*j^*\mathscr G$ があるので、補題により、$\mathscr G$ の各茎の $\iota $-重みが上から $\beta $ で抑えられrます。$\mathscr G$ は局所定数なので、双対をとっても依然同じことが成り立ちますから、各茎の重みが $\beta $ で下からも抑えられます。◼️

 

本ではこのあとに、重みの上界の、収束半径による特徴づけも紙幅を割いて述べられています。なんか読むのキツそうですが、仕方ないので次の記事ではこれを勉強して書いていきたいと思います。