無限圏概観:無限圏のなす無限圏
本文はなるべく用語を日本語で書いています。普段英語の用語に触れている人のために対照表を設けておきます:
日本語 | 英語 |
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無限圏 | an $\infty $-category |
Kan複体 | a Kan complex |
単体的 | simplicial |
胞体 | a cell |
あつまり | a collection, a class |
脈体 | the nerve |
安定 | stable |
定義 単体的集合$K$と無限圏$\mathcal{C}$が与えられたとき ($K$も無限圏として与えられる場面が多い)、「関手の空間」$Fun (K,\mathcal{C})$ を、単体的集合の意味での写像の空間と定義する:\[
Fun (K,\mathcal{C}):= Map_{Set _{\Delta } } (K,\mathcal{C}) = \{ Hom _{Set _{\Delta }} (K\times \Delta ^n , \mathcal{C}) \} _n .
\]
$\mathcal{C}$ が無限圏という仮定から、$Fun (K,\mathcal{C})$ もまた無限圏であることが判明しますが、証明はややテクニカルなようです。
次の定義において、任意の無限圏 $\mathcal{C}$ にはその部分複体であってKan複体である最大のものがあることに注意します。$\mathcal{C}$ の或るn-セルがこの最大部分Kan複体に含まれることと、そのすべての1-胞体が擬同型であることが同値です。(Joyal 論文だと、系1.5.)
定義 無限圏のなす単体的圏 $Cat _{\infty }^{\Delta }$ を、次で定義する。
・対象のあつまりは、小さな無限圏全体である;
・無限圏 $\mathcal{C},\mathcal{D}$ に対して、その間の射の空間 $Map_{Cat _\infty ^\Delta } (\mathcal{C},\mathcal{D})$ を、関手のなす無限圏 $Fun (\mathcal{C},\mathcal{D})$ の最大部分Kan複体とする。
最大Kan部分複体をとったということは、関手どうしの射 (自然変換) のうち、擬同型であるもののみに興味を絞ったということです。「Lurie の本で扱っている無限圏の理論は、正確には$(\infty , 1)$-圏の理論である」という文句がありますが、このことを指しています。
射の空間がすべてKan複体であるような単体的圏に脈体関手を施すと、無限圏を得ることを前回一応述べたのでした。
定義 無限圏のなす無限圏 $Cat _{\infty }$ を、$Cat _{\infty }^\Delta $ の単体的脈体と定義する:\[
Cat _{\infty }:= N (Cat _{\infty }^\Delta )
\]
単体的圏 $Cat _{\infty }^\Delta $ や、関手の空間 $Fun (K,\mathcal{C})$、射の空間 $Map _{Cat _{\infty }^\Delta }(\mathcal{C},\mathcal{D})$ を体系的に論ずるには、単体的集合の圏 $Set _{\Delta }$ にJoyalモデル構造というものを入れることができること (および、若干付加情報をつけたmarked simplicial setsの圏での同様の理論) を知っていると見通しがよいっぽいです。Lurie の本だと §3 の内容に大体あたります。このブログではしばらくスルーします。
K理論との関係では、三角圏の概念の無限版である安定無限圏が基本的な概念です。安定無限圏のなす無限圏といったものもあります。本記事と同じ流れで定義されていくことになります。
通常の圏論では、三角圏は圏に与えられた構造でしたが、無限圏の世界では、安定無限圏は無限圏に対する条件であるのがおもしろい点です。(通常の圏論で、等式という条件だと思っていたものが、無限圏論では両辺をつなぐ経路という構造に転化するのがよくあるパターンなのに!)
短かったですが、今日はこのへんで。