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高次圏概観:$\mathbb{E}_1$-環上の加群の平坦性と射影性

Lurie "Higher Algebra" の§7を勉強しています。

 

$\mathbb E _1$-環とは、スペクトラの世界における、環(1をもち、結合的な)の概念の対応物でした。

すなわちスペクトラム$R$であって、演算$R {}_{\Lambda }R \to R$と単位元$\mathbb{S}\to R$がデータとして与えられており、結合律と単位元の公理がup to homotopyで成り立っています。そして、これを成り立たせているホモトピー(のチョイスの空間)もデータの一部です。

 

$\mathbb E _1$-環$R$上の左加群とは、スペクトラム$ M $であって、スカラー倍演算$R{}_{\Lambda }M \to M $が与えられており、「1倍は恒等写像である」という性質と、スカラー倍を複数回する際の「結合律」がup to homotopyで成り立っており、そのホモトピー(のチョイスの空間)までデータとして与えられているというものです。

加群の概念も同様に定義されます。

 

このような加群が平坦であったり射影的であったりという性質を、Lurieは定義しています。

射影性

射影性は、$R$がconnectiveで$ M $もconnectiveな場合に定義される概念のようです。Connectiveとは、ホモトピー群が$\pi _{\ge 0}$部分しか現れないことを言います。

 

定義 (Higher Algebra 7.2.2.4, Higher Topos Theory 5.5.8.18). 左$R$-加群$P$が射影的であるとは、スペクトラムとしてconnectiveであるような左加群のなす圏$\mathrm{LMod}_R^{cn}$に属しており、その余表現する関手 \[ \mathrm{LMod}_R^{cn} \to \mathcal{C};\quad M \mapsto \mathrm{Map}(P,M)  \] が、単体的対象の幾何的実現と可換であることを言う。

 

これは一目見ただけではナゾですが、何らかの余極限との親和性を述べているので、少々雰囲気は出ていることを感じ取っていただけるのではないでしょうか。(加法的な世界での射影性は、余核を取る操作との可換性として述べられるのでした。)

 

Lurieは上の定義を述べたすぐ後で、Extによる判定法や、次の同値な特徴づけを証明しています。証明法は、アーベル群の世界の場合とアイデアは同じです。といっても、私はアーベル群の場合を今ここでやれと言われても出来ませんが。

命題 (Higher Algebra 7.2.2.7). $R$をconnectiveな$\mathbb E_1$-環とし、$P$をconnectiveな左$R$-加群とする。このとき$P$が射影的であることと、条件

「自由$R$-加群$ M $であって、$P$が$M $のレトラクトであるようなものが存在する。」

は同値である。

 また、これの証明の系として、射影加群有限性について、次の3つの概念が一致することを示しています。

・$\pi _0 P$が$\pi _0 R$-加群として有限生成である。

・$P$が$\mathrm{LMod}_R^{cn}$のコンパクト対象である。

・$P$が有限生成な自由加群のレトラクトである。

 

 

Tor

$R$を$\mathbb E_1$-環とし、$M $を右$R$-加群、$N$を左$R$-加群とします。このとき、テンソル積$M\otimes _R N $がスペクトラムとして定まります。これは次の図式の余極限として定義されます。\[  M_{\Lambda }R _{\Lambda }N \rightrightarrows M _{\Lambda }N. \] アーベル群の世界でも、同様に定義したので、大丈夫でしょう。

$M $と$N$のTorは、このテンソル積のホモトピー群として定義されます。\[  Tor_i^R(M,N):= \pi _i (M\otimes _R N). \]

 

 

 

平坦性

 平坦性の定義には、connectivityは関わってきません。

定義 (Higher Algebra 7.2.2.10). $R$を$\mathbb E_1$-環とし、$M $を左$R$-加群とする。$ M $が平坦であるとは、次の2条件が成り立つこととする。

・$\pi _0 M $が$\pi _0 R$-加群として平坦である。

・各$n\in \mathbf Z $に対して、スカラー倍が定める写像 $\pi _n R \otimes _{\pi _0 R} \pi _0 M  \to \pi _n M $がアーベル群の同型である。

せっかくTorを導入したので、高次のTorの消滅によって平坦性を特徴付けたいところですが、Lurieはもちろんこれもしてくれています(connectiveな場合に)。

命題 (Higher Algebra 7.2.2.15). $R$をconnectiveな$\mathbb E_1$-環とし、$N $をconnectiveな左$R$-加群とする。このとき、$N$が平坦であることと、次の条件が同値である。

「$M $が離散的な右$R$-加群のとき、$M\otimes _R N$も離散的である。つまり、$Tor_i^R (M,N)$が$i=0$以外で消える。」

 これ以外にも平坦性の判定法に類するものがいくつか紹介されていますが、それは必要になったら書き足します。

 

§7.2.3ではOre局所化というものが説明されています。これは、非可換環において、環の部分集合を可逆化するという話題です。

可逆化に関する普遍性を持った環は、そのようなすべての環の逆極限をとることで、抽象的なレベルでは存在することがわかります。Ore条件(右または左)というものを仮定すると、局所化が具体的に書けるということが説明されています。

圏の局所化で、可逆化したい射の族に適当な条件を付すると、左分数計算や右分数計算で圏の可逆化が書ける、というのと同じストーリーです。必要になったら書き足したいです。

 

いまは、§7.2.4の「有限性の条件」の節に進みたいと思います。これは次の記事として書きます。