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係数環を、加群の圏から復元する

Aを環とします。左A加群の圏をA-Modと記すことにします。U: A-Mod $\to $ Ab を忘却関手とします。このとき、環Aが何であったか忘れても、圏としてのA-Modと関手Uから環Aを思い出すことができます。

ずばり、関手Uから関手Uへの自然変換の集合としてです:$A=End (U)$. 右辺が圏論の言葉だけで書かれていることに注意してください。この記事ではこれを丁寧に確認してみます。End(U)の環構造を紙数をかけて説明するのが面倒なので、集合の全単射についてだけ書くことにします。

まず、写像$A\to End (U)$があります。元$a\in A$に対して、各加群Mに対してM上の左乗法$ a\times  \colon M\to M $を与えればよいです。このデータがUからUへの自然変換を定めているという条件は、任意のA-線型なf: M $\to $ Nに対して次の図式が可換という条件ですが: \[ \begin{array}{ccc} M &\xrightarrow{a\times } &M \\ \downarrow f &&f \downarrow \\ N &\xrightarrow[a\times ]{}&N  \end{array}\] これはA-線形写像という概念の定義そのものから可換です。

また、写像$A\to End (U)$は単射です。$1\in A$の行き先を考えれば良いです。

最後に、この写像全射です。これを見るためにEnd(U)の元$\phi = (\phi _M \colon M\to M )_M $を考えます。$\phi _A\colon A\to A$による$1\in A$の行き先を$a$とします。このとき$\phi _M $が全ての M に対して左から$a$を掛ける写像であるという主張を示します。

さて任意のA-加群Mと元$x\in M $に対して、A-線形写像$f_x\colon A\to M $で$1\mapsto x$なものが(一意に)存在します。具体的には、$b\in A$を$bx\in M $に写せば良いです。(この写像は左A-線形です、$f_x(bc)=bc\cdot x$で一方$b\cdot f_x(c)=b\cdot cx$なので。)蛇足ですが、この事実を「$1\in A$は忘却関手A-Mod $\to $ Sets における普遍元である」または単に「$1\in A$はA加群の元として普遍的なものである(普遍元である)」などと言い表すようです。

この状況に、族$(\phi _M)_M $が関手の自然変換であることを適用すると:\[ \begin{array}{ccc} A & \xrightarrow{\phi _A} & A \\ \downarrow f_x && f_x \downarrow \\ M &\xrightarrow[\phi _M]{} & M \end{array} \] 左上にいる元$1\in A$の右下への像を2通りに計算して$\phi _M (x) = a\cdot x$を得ます。◼️