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Lang-Weil による解の個数の評価

表題はもちろん、Lang-Weilの有名論文「Number of Points ...」の定理1のことです。Tao氏によるよくまとまった記事があるので、それを読んでいただいても良いと思います。

主張を(現代の用語で)述べます。$V$を有限体$\mathbf F_q $上の幾何的に整な$r$次元射影多様体とし(もしも幾何的に整でなかったら、基礎体$\mathbf F_q$の取り方に無駄があります)、射影空間$\mathbf P^n$の中で次数$d$を持っているとします。この状況で

定理

定数$A(n,d,r)>0$が存在し、$\mathbf F_q$-有理点の個数評価 $| |V(\mathbf F_q) | - q^r | \le (d-1)(d-2) q^{r-\frac 12 } + A(n,d,r) q^{r-1} $が成り立つ。

ここで大切なのは、誤差評価に現れる定数が、基礎体に依らずに取れていることです。体のサイズ$q$はもとより、標数にすら依らずにとれます。このことは$\mathbf Z$上定義された多様体を考える場合に有用になります。応用のしょぼいまとめが別の記事にあります。

 

1次元の場合

1次元の場合は、$V$の正規化$V_1$をとり、$|V_1(\mathbf F_q)| -|V(\mathbf F_q)|$を次数$d$にのみ依る定数で抑えることで、曲線に関するWeil予想(Weilの定理)に簡単に帰着されます。論文では、初めのページで、10行程度で説明されています。

ここのチェックの仕方も別の記事として念のため書きますが、この記事では次元による帰納法で高次元の場合を証明するところを扱います。

 

高次元の場合

定理よりも弱い(ただし微妙に一般性が高い)主張である、次の補題を先に証明する必要があります。

補題

$V$を$\mathbf P^n$内の$r$次元で次数$d$の閉部分スキームとする。定数$A_1(n,d,r)>0$が存在し、$|V(\mathbf F_q)| \le A_1 (n,d,r) q^r$.

$r=0$なら自明に成立$|V(\mathbf F_q)| \le d$しているので、$r\ge 1$とします。Hyperplane sectionsによる筆 pencil $V\to \mathbf P^1$であって、$\mathbf P^1(\mathbf F_q)$の点のファイバーがすべて$\mathrm{dim} (V)-1$次元であるようなものが存在します。有限体上でも、体拡大は必要ありません。これの証明は初等的な線形代数ですが、念のため別の記事で説明します。

$V(\mathbf F_q)$のそれぞれの点は、ある筆のメンバー(超平面) $H$に含まれます(大抵の点は1個の$H$、筆の軸に含まれる点は複数の$H$に含まれます)。つまり$V\cap H$に含まれます。$V\cap H$は$H\cong \mathbf P^{n-1}$の中の次数$d$, 次元$r-1$の閉部分スキームです。その点の数は帰納法により$\le A_1(n-1,d,r-1) q^{r-1}$個です。$H$は$q+1$とおりなので、$|V(\mathbf F_q)| \le (q+1) A_1 (n-1,d,r-1) q^{r-1} \le 2 A_1(n-1,d,r-1) q^r $と抑えられます。補題が証明できました。◼️

 

補題2

正の定数$A_2(n,d,r)>0$があって次が成り立つ。$V\subset \mathbf P^n$を$r$次元、次数$d$の幾何的に整な多様体とするとき、超平面$H$のうち$V\cap H$が幾何的に整でないようなものの個数は$\le A_2(n,d,r)$である。

証明には、$n,d,r$で定まるChow多様体$\mathrm{Chow}_{n,d,r}$を用います。これは次数$d$の$r$次元サイクルをおおむねパラメタ付けする射影的スキームです。この中で、サイクルが幾何的に整でないような点の集合$C=C_{n,d,r}\subset \mathrm{Chow}_{n,d,r}$は真の閉部分集合だそうです。(少なくともEGA IV-3 定理9.7.7により構成可能集合であることは私は知っているので、とりあえず信じます。)

超平面切断を考えることで決まる、双対射影多様体$\check{\mathbf P}^n$からの射(up to radicial extensionでしか定義できないかもしれませんが) $\check{\mathbf P}^n\dashrightarrow \mathrm{Chow}_{n,d,r-1}$; $H\mapsto V\cdot H$を考え、これによる$C_{n,d,r-1}$の逆像を考えます。この逆像に前の補題を適用するとよいです。

$A_2(n,d,r)$が標数に依らずに取れると確認するには、$C_{n,d,r}\subset \mathrm{Chow}_{n,d,r}$がある程度標数に依らずに取れていることを確認する必要があります。($Spec (\mathbf Z)$の或る開被覆で、それぞれの開集合上は$C$や$\mathrm{Chow}_{n,d,r}$が共通の方程式で定義できているようなものがあると良いです。)これは多分本当なんだと思います。◼️

 

定理を証明します。$V\subset \mathbf P^n$は超平面には含まれないとしてよいです(体拡大した後で超平面に含まれる場合は、実は初めから或る超平面に含まれています)。 

$\mathcal H\subset \mathbf P^n \times \check{\mathbf P}^n$を$\mathbf P^n$の超平面の普遍族とし、$V\times \check{\mathbf P}^n$との交わりを考えます。仮定により、交わりは$\check{\mathbf P}^n$上、等次元的になっています。この交わりが何個の$\mathbf F_q$-有理点を含んでいるか、2通りの数え方をすることで次の等式を得ます(= 次の2つの射影を考え、それぞれファイバーごとに点を数えます:$V\leftarrow (V\times \check{\mathbf P}^n \cap \mathcal H ) \to \check{\mathbf P}^n $)。タイプが面倒くさいので、有限集合の位数をあらわす記号$|-|$を省いて書きます:\[ V(\mathbf F_q)\cdot \check{\mathbf P}^{n-1}(\mathbf F_q) = \sum _{H\in \check{\mathbf P}^n(\mathbf F_q)} (V\cap H) (\mathbf F_q) \] 補題2により、許容される誤差を除いて、右辺のほとんどの$H\in \check{\mathbf P}^n$ ($\frac{q^{n+1}-1}{q-1} -$ ちょっと個) に対して$V\cap H$は幾何的に整です。そのような$H$に対しては、次元に関する帰納法により、$|V\cap H (\mathbf F_q)| = q^{r-1}+ $誤差です。なので、両辺を$|\check{\mathbf P}^{n-1}(\mathbf F_q)| = \frac{q^n-1}{q-1}$で割ると、右辺の主要項は予定通り$q^r$になります。この計算をキチンと書き下す(分数ができる大学生ならばできる)ことにより、定理の主張が確認できます。◼️