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Steenrod篇:§10. 古典的 Adem 関係式のしめくくり

問題設定 ここでは、任意の可換環 R と、t を先頭項に持つ冪級数 \[ τ = t + c_2t^2+c_3t^3 \cdots \in R [ [ t ] ] \] に関して、基底変換からくる同型 \( R[ [t ] ][ \frac 1 t ] dt \cong R [ [τ ] ][ \frac 1 τ ] d τ \) と留数をとる写像が可換というこ…

Steenrod 篇:§10. Adem 関係式---古典論における導出

文献 S.R. Bullett, I.G. Macdonald On the adem relations, Topology 21(3), 1982, 329-332 \( t\) を次数 0 の不定元とし、Steenrod square を並べた次のコホモロジー作用素を考えます。 \[ P(t):= Sq^0+Sq^1t+Sq^2t^2+\cdots \colon \quad H^{*}(-)\to H^…

Steenrod 篇:§10. Adem 関係式---古典論のおさらい

論文§10では、古典論で知られている Adem 関係式といわれるものの類似が成り立つことが説明されています。-1 の平方根が必ずしも基礎体に属さないために、古典論よりも若干煩雑な式が登場します。 この記事では、まず古典論のおさらいをしましょう。 \( \mat…

Steenrod 篇:§9. つづき

ここではちょっと退屈な、\( P^i,B^i \) たちの相互の関係を説明します。そんなに興味のない人は、非自明な \( Sq^{i}\) が現れる範囲の図式だけ見て進んでいただければいいと思います。 写像の存在範囲 Bockstein との関係式 その他 写像の存在範囲 一般に…

Steenrod 篇:§9. 個冪作用素

この節では、§5 の総冪作用素 \( P_l \) と、§6 の \( BS_l \) のコホモロジー群の計算を利用して、個冪作用素(係数は \( \mathbf{Z}/l \) )\[ \begin{array}{rl} P^i\colon & \tilde{H}^{p,q}(-)\to \tilde{H}^{p+2i(l -1)\phantom{+},\ q+i(l -1) }(-), …

Steenrod 篇:§8. 冪作用素と Bockstein写像

これも 3 ページからなる小さな節で、定理 [Reduced power, Thm.8.4]: 「任意の次数 \( d\) とコホモロジー類 \( u\in H^{2d,d}(X,\mathbf{Z}/l )\) に対して、\(\beta P_l (u)=0. \) 」 を証明しています。\( P_l \) は既に登場した総冪作用素で、\( \beta…

Steenrod 篇:§7. 対称性定理

この節は対称性定理: 「合成 \[ \begin{array}{rl} H^{2i,i}(X,\mathbf{Z}/l)&\xrightarrow{P_l}\phantom{l^2} H^{2il,il}(X\times BS_l ,\mathbf{Z}/l) \\ &\xrightarrow{P_l} H^{2il^2,il^2}(X\times BS_l\times BS_l,\mathbf{Z}/l) \end{array} \] はふ…

Steenrod 篇:§6後半. \( B\mu _l \) のコホモロジーの環構造

\( H^{*,*}(B\mu _l,\mathbf{Z}/l )\) の 加群としての構造を書き下しました(階数 2 の自由加群で、1 と u を基底とする)。環構造を知るには、あとは \[ u^2\in H^{2,2}(B\mu _l,\mathbf{Z}/l)\] が何かを明らかにすればよいです。\( l \) が奇素数ならば…

Steenrod 篇:§6前半. \( B\mu _l\) のコホモロジー

§6 ではモチビック・コホモロジー \( H^{p,q}(B\mu _l ,\mathbf{Z}/l ) \) と \( H^{p,q}(BS_l ,\mathbf{Z}/l) \) の計算をしています。のちの応用で重要なのは \( BS_l \) の方ですが、証明には \( B\mu _l \) への帰着を多く使います。(1 の原始 \( l\) …

Steenrod 篇:§5. 総冪作用素

V. Voevodskyの論文「Reduced power operations in motivic cohomology」の第5節のまとめ。

体上の 2 次形式篇:2 次形式から定まる Clifford 代数

いつも通り、標数 \(\neq 2\) とします。 (V,q) を 2 次形式付きのベクトル空間とします。q は非退化と仮定しなくてもよいそうです。q に対応する対象双線型形式を B: V x V --> k とします。 まずは抽象的に、次のような状況を考えます。 A は (非可換な) k…

体上の 2 次形式篇:Pfister forms の科学

いつもどおり、F を標数 \(\neq 2 \) の体とします。n 個の可逆元 \( a_1,\dots ,a_n\in F^* \) に対して、付随する Pfister form をつぎの 2 次形式つき \( 2^n\) 次元空間とします。\[ \langle\langle a_1,\dots ,a_n \rangle\rangle := \langle 1, -a_1 \…

体上の 2 次形式篇:Witt の消去定理

定理 2 次形式 \(q,q_1,q_2\) に関して、\( q\oplus q_1\cong q\oplus q_2\) ならば \( q_1\cong q_2 .\) 初めに与えられている \( \phi \colon q\oplus q_1\cong q\oplus q_2 \) は部分空間 \(q\) や \(q_i\) を保っているとも何とも仮定していないのに、結…

体上の 2 次形式篇:双曲的 2 次形式

「昨日の」記事では 2 次形式 / 対称双線型形式の具わった空間の概念を導入し、その同等性を説明しました。そのあと、2 次形式が非退化であるとはどういうことかを定義しました。なので、2次形式つきベクトル空間 (V,q) と対称双線型形式つきベクトル空間 (V…

体上の 2 次形式篇:基本の基本

この記事のシリーズには、Milnor 予想の勉強のために必要な 2 次形式の知識をまとめています。いつもどおり、「投稿日時」は実際に書いている日時とは異なります。 体はなるべく \(F\) で表し、標数は 2 でないとします。 ・目次 定義と用語 直和とテンソル …

特性類講義より:多元環と射影空間の接束

Stiefel の定理として述べられている主張 定理 4.7 (Stiefel) 双線型で零因子を持たない写像 \[\mathbf{R}^n\times\mathbf{R}^n\to\mathbf{R}^n\] が存在するような \( n\) に対して、\( \mathbf{P}^{n-1}\) (実射影空間) は平行化可能である(=接束が自明…

特性類講義より:Stiefel-Whitney 類

ここでは Stiefel-Whitney 類の基本事項を述べます。詳しくは Milnor-Stasheff 本の §4, §8 を読むとよいです。 Stiefel-Whitney 類とは、位相空間 \(X\) 上の階数 \(n\) の実ベクトル束 \(E\to X\) に対して定まるコホモロジー類の組 \[ \begin{array}{l}w_…

無限圏概観:Cartesianファイブレーション

Grothendieckの場合正式な定義まっすぐ化 Grothendieckによる圏のファイブレーションの概念の無限版です。 念の為ですが、圏のファイブレーションの典型例は、位相空間と、その上の層の組 $(X,\mathcal{F})$ からなる圏です。組の間の射 \[(X,\mathcal{F}) \…

無限圏概観:射の可逆化

標識付き単体的集合 単体的モデル圏の場合 アーベル圏の導来圏 一定の射の族を可逆化して新しい圏を作るという操作をわれわれは昔からおこなって来ました。アーベル圏から作った複体の圏で擬同型を可逆化すると導来圏が得られますし、モデル圏で弱同値を可逆…

無限圏概観:安定無限圏

・始対象、終対象 ・コンマ圏 ・安定無限圏の定義に現れる用語の解説 本文はなるべく用語を日本語で書いています。普段英語の用語に触れている人のために対照表を設けておきます: 日本語 英語 無限圏 an $\infty $-category 懸垂 suspension 単体的 simplic…

無限圏概観:無限圏のなす無限圏

本文はなるべく用語を日本語で書いています。普段英語の用語に触れている人のために対照表を設けておきます: 日本語 英語 無限圏 an $\infty $-category Kan複体 a Kan complex 単体的 simplicial 胞体 a cell あつまり a collection, a class 脈体 the ner…

無限圏概観:単体的脈体関手

この一連の記事では、K理論の方面で基本的となっている Blumberg, Gepner, Tabuada の論文「A universal characterization of higher algebraic K–theory」に必要な無限圏の知識をまとめていっています。 無限圏 (∞-category) の定義の動機づけは、日本語で…

トーラス上の楕円型作用素のregularity

ソボレフノルムが有限な級数からなる空間$H_s$は、$s\in \mathbb Z$が大きくなるほど小さくなる($C^\infty $級関数に近づく)のでした。記号$H_{-\infty}:= \bigcup _{s\in \mathbb Z} H_s$を思い出しておきましょう。 定理 $L$をトーラス$(S^1)^n$上の$l$…

楕円型微分作用素 - 定義とはじめの性質

ソボレフ空間とレリッヒの補題をさらったことにより、目標とする2つの解析的定理のうちの1つが楕円型作用素の勉強に帰着されていたのでした。また、もう1つの定理の方は、証明にバリバリ楕円型作用素が必要らしいのでした。 この記事では、楕円型作用素とい…

レリッヒの補題

2つ前の記事で、向きづけられたRiemann多様体のHodge分解定理が、2つの解析的な定理に帰着されることを述べました、具体的にどう導出されるか細部は説明していませんが。 解析的な定理は、微分形式のなすベクトル空間$\Omega ^p(X)$をHilbert空間に埋め込ん…

仕方ないので関数解析

我々はもともと向きづけられたコンパクトな Riemann 多様体 $X$ を考えていたわけですが、Hodgeの定理の証明の中では、各点の小さな近傍をトーラス $(S^1)^n$ の開集合とみなすステップがあります。そこでしばらくトーラス $(S^1)^n$ 上の$C^\infty $級関数…

解析的手法登場

$\mathcal H^p$を$p$次の調和形式 (harmonic forms) のなすベクトル空間とします。ローマン体 $H^p$ は今後ソボレフ空間を表すのに使いたいので、筆記体を用いて書きました。示したい定理は次でした。 Hodgeの定理 $X$ を向きづけられたRiemann多様体 (これ…

余微分とラプラス作用素

この記事では、向き付きリーマン多様体$M $に対して、余微分と呼ぶ作用素 \[ \delta \colon \Omega ^p (M) \to \Omega ^{p-1}(M) \] を定義し、これを用いてラプラス作用素 \[ \Delta =\delta d + d\delta \colon \Omega ^p(M) \to \Omega ^p (M) \] を導入…

スター作用素

このシリーズではRiemann多様体(コンパクトで向き付き)のde Rhamコホモロジー群が、調和形式のなすベクトル空間と同型であるというHodgeの定理を目標にします。本間泰史氏の講義ノートに概ね基づいています。http://www.f.waseda.jp/homma_yasushi/homma2/…